和歌山人が知らない和歌山

白良浜は2100年にも残るのか 和歌山の砂浜は「自然」だけでは守れない

全国予測を入口に、白良浜と県内の海岸を支える保全と管理を読む

白良浜の白い砂浜と海岸保全施設を背景に、2100年の和歌山の砂浜を考えるイメージ
白い砂浜と海岸保全施設の共存を表したイメージ。実在する白良浜の地形や施設を記録した写真ではありません。
この記事の結論
和歌山の砂浜の未来は、自然条件だけでは決まらない。どの浜を、何のために、どこまで守り続けるのかで変わる。

「2100年には、日本の砂浜の約6割が消える可能性がある」。そんな予測がある。では、白良浜や片男波、扇ヶ浜、千里の浜を持つ和歌山県はどうなのだろう。

これらの浜も今世紀末には大きく縮小し、海水浴場として使えなくなるのだろうか。調べてみると、全国の「6割」という数字を、そのまま和歌山へ当てはめることはできなかった。そしてもう一つ、和歌山を代表する砂浜の多くは、自然の力だけで現在の姿を保っているわけではないことが分かった。

砂を運び、流出を防ぐ施設を造り、海岸線の変化を監視する。白良浜をはじめとする砂浜は、長い年月と費用をかけて「守られてきた浜」だった。

「日本の砂浜6割消失」は、和歌山にも当てはまるのか

国土交通省の検討資料では、一定の条件を置いた全国推計の例として、RCP2.6で62%、RCP8.5で83%という砂浜消失率が示されている。計算には海面上昇量だけでなく、波浪条件、砂の粒径、海底勾配、砂浜延長などが使われ、77の沿岸区分別に消失面積を求めている。

ただし、同じ資料は、簡便なモデルで予測に用いるパラメータを減らしても「現状では予測の不確実性が相当大きい」と明記している。海面が上がれば、すべての砂浜が同じ距離だけ後退するわけではない。

傾斜が緩い浜か急な浜か、砂が細かいか粗いか、川から新しい砂が供給されるか、近くに港・防波堤・突堤・離岸堤があるか、人が砂を補充しているか。こうした条件で変化は大きく異なる。

つまり「全国で6割が消える可能性がある」からといって、「和歌山の砂浜も6割消える」とは言えない。まして「白良浜も2100年にはなくなる」と断定することはできない。和歌山の将来を考えるには、県全体の平均ではなく、浜ごとの条件を見る必要がある。

和歌山の海岸は、全部が同じ「砂浜」ではない

和歌山県の海岸線は県地域防災計画で約652キロメートルとされる。ただし、そのすべてが白良浜のような砂浜ではない。県北部には比較的広い砂浜がある一方、南へ進むと山地が海岸近くまで迫る場所、岩礁海岸、入り組んだ海岸が多くなる。

白良浜や片男波は観光利用の大きい砂浜、田辺扇ヶ浜は市街地に隣接して防災と都市利用の両方が求められる海岸、千里の浜はアカウミガメの産卵地として重要な自然海岸である。煙樹ヶ浜は、細かな砂ではなく主に礫でできた海岸だ。

観光のために守られる浜、市街地を高潮や高波から守る浜、生き物の生息環境として守る浜、地域の景観や文化の一部として残す浜。海岸ごとに守る目的も違い、和歌山の砂浜の未来は一つの数字では語れない。

海岸海岸の特徴主な保全目的
白良浜観光利用の大きい白砂の砂浜防災、観光、景観
片男波広い人工海浜と公園観光、景観、利用
扇ヶ浜市街地に隣接する再整備海岸防災、都市利用、景観
千里の浜アカウミガメ産卵地の砂浜生態系、文化、自然環境
煙樹ヶ浜日高川河口に形成された堆積礫浜景観、松林、海岸環境

これは将来リスクのランキングではない。海岸の種類と、守る目的の違いを整理したものである。

白良浜は、自然のまま残っているわけではない

今回の調査で最も象徴的だったのが白良浜だ。白い砂と青い海で知られ、現在の景観だけを見れば、昔から自然のまま残ってきた砂浜のように感じる。しかし、実際には1980年代から、さまざまな海岸保全事業が続けられてきた。

2024年6月の和歌山県議会答弁によると、白良浜では1983年度に権現崎側の突堤工事に着手。1985年度から湯崎側の突堤と離岸堤、1987年度から護岸を整備し、1991年度までにこれらの施設を整えた。

1989年度から2000年度には約7万5,000立方メートルを養浜し、2002年度から2007年度には砂止めの潜堤を整備。2007年度からモニタリングを続け、2019年度に砂浜が安定した状態にあることを確認したという。さらに2019年度から既設階段護岸をかさ上げし、2024年6月に完了した。

時期確認できた整備・管理
1983年度権現崎側の突堤工事に着手
1985年度湯崎側の突堤、離岸堤工事に着手
1987〜1991年度護岸工事に着手し、施設整備を完了
1989〜2000年度約7万5,000m³を養浜
2002〜2007年度砂止めの潜堤を整備
2007年度以降砂浜のモニタリングを継続
2019年度砂浜が安定した状態にあることを確認。階段護岸のかさ上げに着手
2024年6月階段護岸のかさ上げ対策を完了

白良浜は、砂を入れれば終わりではない。砂が流出しにくいよう突堤、離岸堤、潜堤を整備し、波や台風の影響を確認しながら維持されてきた。自然景観であると同時に、長期間管理されている海岸インフラでもある。

白い砂はオーストラリアから運ばれた

白良浜の養浜で特に知られるのが、オーストラリアから運ばれた砂である。白浜町議会の2022年会議録では、1984年度から本格的に事業が始まり、2006年度までの総事業費は26億3,807万4,000円、オーストラリアから輸入した砂は10万8,000立方メートル、砂の金額は12億6,718万5,000円と説明されている。

県議会答弁の「養浜約7万5,000立方メートル」と町議会会議録の「輸入砂10万8,000立方メートル」は、資料が示す対象や集計の範囲が同一とは限らないため、同じ数値として扱わない。

白良浜の白い砂は、美しい自然の象徴に見える。しかし、その景観を支えるのは、海外から砂を運ぶ大規模な事業と、砂を浜にとどめる施設だった。現在の白良浜がすべて人工的につくられたという意味ではなく、もともとの自然海岸に対し、侵食を防ぎ、浜を広げ、利用できる状態を維持してきたのである。

白浜町の2007年広報資料には、1970年ごろから砂の流出が目立ち、2004年の台風23号で砂が流され岩場が出た記録もある。砂を入れたからといって永久に残るわけではない。

白良浜は2100年にも残るのか

現時点で、それを正確に答えることはできない。白良浜だけを対象に、2100年の浜幅や海岸線を精密に示した公的予測は、今回確認した資料では見つからなかった。

ただし、白良浜は白浜町を代表する観光資源であり、長年にわたって保全事業が続いてきた。公開資料からは、観光だけでなく高波・高潮から背後地を守る目的も明確で、「守る理由」が強い海岸だと考えられる。

今後、海面上昇や高波の影響が強まれば、養浜量の増加や護岸・海中施設の追加対策が必要になる可能性があり、維持費も大きくなるかもしれない。白良浜が将来も現在に近い形で維持されるとすれば、それは「変化しない自然」だからではなく、社会が守り続けると判断し、変化に応じて対策を更新していくからである。

片男波も「自然のままの浜」ではない

白良浜だけが特殊なわけではない。和歌山市の案内は、片男波を全長1,200メートルの「美しい人工海浜」とし、環境省「快水浴場百選」の海の部特選に選ばれた海水浴場と説明している。

現在の広い砂浜だけを見れば安定した自然海岸のように見えるが、その背景には砂浜と公園の整備、海水浴場としての管理がある。片男波も「自然に残った浜」だけではなく、「人が利用できるよう整え、守ってきた浜」と見るべきだろう。

扇ヶ浜は「よみがえらせた海岸」

田辺市の扇ヶ浜総合整備事業によると、扇ヶ浜はかつて白砂青松の景勝地だったが、1961年の第二室戸台風で甚大な被害を受け、安全を優先して造られた高い堤防によって昔日の面影を失った。その後も侵食が続き、台風時には越波する状態だった。

田辺市では扇ヶ浜を「よみがえらせる」ことを長年の課題とし、県が1995年度から海岸環境整備事業などに着手した。現在は市街地に近い海水浴場であると同時に、防災、景観、都市のにぎわいを支える場所でもある。

扇ヶ浜の歴史を見ると、砂浜は失われたら終わりではなく、人の手で回復させられる場合もあることが分かる。ただし、回復した海岸も、その後の維持を続けなければならない。

千里の浜は、海水浴場とは違う理由で守る必要がある

みなべ町の千里の浜は、白良浜や片男波とは性格が大きく異なる。みなべ町の案内では延長1.3キロメートルの砂浜とされ、熊野古道が海辺を通る場所であり、本州最大級のアカウミガメ産卵地として重要な海岸である。

産卵・孵化期にはキャンプが禁止され、産卵観察には許可が必要だ。国立公園の規制では車両などの乗り入れも制限されている。守る対象は海水浴客が利用できる浜幅だけではない。上陸し、穴を掘り、産卵できる砂の状態、子ガメが海へ向かうまでの静かな環境、人工照明の影響を受けにくい夜の暗さなど、条件全体が産卵地としての価値を決める。

環境省近畿地方環境事務所の2024年調査報告では、千里の浜の孵化率は平均的に40%程度で推移してきたが、2024年は10.7%と記録的に低かったとされる。

孵化率低下を砂浜の縮小だけで説明することはできない。環境省の続報でも、卵の発生状態、捕食、砂中環境など複数の要因を調べている。千里の浜では「砂浜が残るか」だけでなく、産卵地として機能する砂浜をどう残すかが問われている。

煙樹ヶ浜は、そもそも「砂浜」ではない

和歌山県の有名な浜として煙樹ヶ浜を思い浮かべる人も多い。しかし、煙樹海岸県立自然公園計画書は、煙樹ヶ浜を「日高川の河口に形成された堆積礫浜海岸地形」としている。白良浜や片男波のような砂浜とは成り立ちが異なる。

そのため、海面上昇による砂浜後退を計算する全国モデルへ、そのまま当てはめることはできない。礫浜も高波、河川からの土砂供給、海岸構造物などの影響を受けるが、砂浜とは礫の動き方も海岸形状を保つ仕組みも異なる。「和歌山の浜が消える」と一括りにすると、こうした違いが見えなくなる。

和歌山県は、砂浜の変化を前提に動き始めている

国は2020年、海岸保全を、過去のデータだけに基づく対策から気候変動の影響を明示的に考慮する対策へ転換した。それを受け、和歌山県は紀州灘沿岸熊野灘沿岸の海岸保全基本計画を2026年2月に変更している。

県の検討資料では、和歌山県沿岸が属する領域IIIについて、2℃上昇シナリオで20世紀末と比べた21世紀末の平均海面水位上昇量を0.39メートル(予測幅0.22〜0.56メートル)と設定している。これは2100年に必ず0.39メートル上昇すると断定するものではない。

重要なのは、県が「過去と同じ海面や波の条件が今後も続く」とは考えていないことだ。国の提言は、海岸のモニタリングを充実し、予測や影響評価を更新しながら対策を見直す順応的な砂浜管理を掲げている。砂浜を一度整備すれば終わりではない。

砂がどこから来てどこへ流れるのか、海岸線がどの程度変化しているのか、施設は機能しているか、防災・観光・環境のどれを優先するのか。状況を見ながら対策を変え続ける必要がある。

すべての砂浜を同じように守れるのか

県内すべての砂浜を、現在と同じ姿で守り続けることは可能なのだろうか。白良浜のように観光客が多く、地域経済への影響が大きい浜では、今後も保全事業が続けられる可能性がある。片男波や扇ヶ浜も、防災、観光、都市利用など複数の役割を持つ。千里の浜には、アカウミガメの産卵地として守る理由がある。

一方で、利用者が少ない小規模な砂浜や、外洋に面して変化が激しい海岸に、同じ規模の費用や人員を投入し続けられるとは限らない。人口減少が進み、道路、上下水道、公共施設など多くのインフラ維持が課題になるなか、海岸保全にも優先順位が付けられる可能性がある。

どの浜を守るのか。何のために守るのか。砂浜の幅を現在と同じに保つのか。防災機能を優先し、景観や利用方法の変化を受け入れるのか。これは公開資料を踏まえた社会的な論点であり、特定の海岸が「見捨てられる」と断定するものではない。

砂浜の未来は自然科学だけでは決まらない。予算、観光政策、防災、地域住民の意思、生態系保全など、社会の判断にも左右される。

和歌山の砂浜は、2100年にどうなっているのか

和歌山県の砂浜が2100年までに何割消えるかは分からない。全国の「6割」という数字を、そのまま当てはめることもできない。ただし、今回の調査から分かることはある。

白良浜は、自然のまま現在の姿を保ってきたわけではない。海外から砂を運び、突堤、離岸堤、潜堤を整備し、状態を監視しながら守られてきた。片男波や扇ヶ浜も、人の手による整備と管理の歴史を持つ。千里の浜は、観光だけでなくアカウミガメの産卵環境として守る必要がある。煙樹ヶ浜は、そもそも一般的な砂浜とは成り立ちが違う。

和歌山の砂浜は一律に消えるわけではない。しかし、自然の力だけで今の姿がそのまま残るとも限らない。海面上昇や高波の影響が強まれば、これまで以上に砂を補い、施設を整え、海岸を監視する必要が出てくる。その一方で、すべての浜を同じ方法、同じ費用で守ることは難しい。

和歌山の砂浜の未来は、自然条件だけでは決まらない。どの浜を、何のために、どこまで守り続けるのか。それは、私たちの社会が選ぶ問題でもある。