COOL WAKAYAMA考察

和歌山製鉄所はなくならない。でも、作るものは変わる。

日本製鉄・関西製鉄所和歌山地区で進む設備再編とは

和歌山市の臨海製鉄所と鋼材を背景に『和歌山製鉄所はなくならない。でも、作るものは変わる。』と示した記事サムネイル
記事テーマを表したイメージです。実在の製鉄所を記録した写真ではありません。

和歌山市の紀の川河口近くに広がる、日本製鉄の関西製鉄所和歌山地区。

巨大な高炉や煙突、港に面して並ぶ工場群は、長年にわたって和歌山市の工業地帯を象徴する風景のひとつです。

その和歌山地区で、いま大きな変化が進んでいます。

日本製鉄は、和歌山地区にある薄板ラインをすべて、2026年度末、つまり2027年3月末を目途に休止する計画を示しています。

すでに2021年には高炉が2基体制から1基体制となり、海南地区では小径シームレス鋼管を生産していた西ミルも2025年度末に休止しました。

ここまで聞くと、

「和歌山製鉄所そのものが、いずれなくなるのでは」

と思うかもしれません。

ただ、現在確認できる事実はそこまで単純ではありません。

和歌山地区では今も、製銑、製鋼、シームレスパイプ、電縫鋼管などの機能が残っています。和歌山側だけでも約2,200人、海南側では約700人が働く、現在も大きな生産拠点です。

つまり、起きているのは「全面閉鎖」ではありません。

では、何が起きているのでしょうか。

答えを探していくと、和歌山だけの事情ではなく、日本製鉄そのものが進めている「どこで、何を作るか」の組み替えが見えてきます。

高炉2基から1基へ。次は薄板ラインが止まる

和歌山地区にとって、大きな転換点のひとつが2021年です。

それまで2基あった高炉は、1基体制となりました。

さらに同年、日本製鉄は中長期経営計画の中で、和歌山地区の薄板ラインをすべて休止する方針を示しました。

当初は2024年度上期末が目途とされていましたが、その後計画は変更され、現在は2026年度末を目途としています。

一方で、製鉄所そのものがなくなるわけではありません。

製銑や製鋼、シームレスパイプ、電縫鋼管など、現在も残る機能があります。

ここで大事なのは、

「和歌山で減る設備がある」ことと、「和歌山から日本製鉄が撤退する」ことは同じではない

という点です。

和歌山地区で減る設備と残る機能を比較した図解
和歌山地区では高炉や薄板ラインなどの再編が進む一方、製銑・製鋼・鋼管機能は現在も残っている。 図をタップすると拡大できます。

薄板ラインが止まるといっても、製品そのものを日本製鉄が作らなくなるわけでもありません。

日本製鉄は薄板事業について、競争力の高い製造ラインに注文を集約し、より需要地に近い場所で生産する方針を示しています。

和歌山地区と大阪地区で生産してきたハイカーボン製品については、瀬戸内製鉄所阪神地区の堺へ生産を集約し、堺と九州製鉄所八幡地区の2拠点体制へ移行します。

つまり、

和歌山で作ることをやめても、日本製鉄としてその製品を作ることをやめるわけではない。

進んでいるのは、製品の撤退というより、生産場所の集約です。

鉄鋼業は、和歌山市の製造業出荷額の約3割

では、この設備再編は和歌山市にとってどれほど大きな話なのでしょうか。

2021年経済センサスをもとにした製造業統計では、和歌山市の製造品出荷額等は約1兆2,669億円。

そのうち鉄鋼業は約3,760億円で、29.7%を占めています。

一方、製造業従業者に占める鉄鋼業の割合は15.1%、付加価値額では15.3%です。

和歌山市の製造業に占める鉄鋼業の割合を示した図解
鉄鋼業は和歌山市の製造品出荷額等の29.7%を占める一方、製造業従業者では15.1%、付加価値額では15.3%。 図をタップすると拡大できます。

ここで注意したいのは、29.7%という数字の意味です。

これは、

「和歌山経済の約3割が鉄鋼業」

という意味ではありません。

あくまで、和歌山市の製造品出荷額等に占める鉄鋼業の割合です。

また、統計上の「鉄鋼業」には日本製鉄以外の企業も含まれます。

それでも、鉄鋼業が和歌山市最大級の製造業であることは分かります。

化学工業も製造品出荷額等の約29%を占めており、和歌山市は「鉄だけの街」ではありません。

しかし鉄鋼と化学という二つの産業が、和歌山市の製造業を大きく支えている。

その中核のひとつで設備再編が続いているからこそ、日本製鉄の動きは「一企業の工場の中だけの話」では終わりません。

日本製鉄は、本当に縮小しているのか

ここで一度、和歌山から離れて日本製鉄全体を見てみます。

すると、少し違う姿が見えてきます。

2026年9月、日本製鉄はスロバキアのU. S. Steel Košiceで、新しい電気炉などに約9億ユーロを投資すると発表しました。

海外だけではありません。

国内でも、名古屋製鉄所では新しい熱延設備を整備し、高級薄板の生産体制を強化。

九州製鉄所八幡地区では、大型電炉への転換を進めています。

一方で、和歌山では高炉が減り、海南では鋼管ラインが一つ止まり、薄板ラインも休止予定です。

この二つの動きは矛盾しているようにも見えます。

でも、日本製鉄全体で見ると、

  • 休止・集約する設備
  • 現在も残る機能
  • 新たに投資・強化する設備

が同時に存在しています。

日本製鉄の休止・集約、残る機能、投資・強化を並べた図解
日本製鉄全体を見ると、設備の休止・集約、既存機能の稼働、大型投資が同時に進んでいる。 図をタップすると拡大できます。

ここから見えてくるのは、単純な「縮小」というより、設備や製品、生産拠点の再配置です。

ただし、海外への投資が和歌山の設備休止を直接引き起こした、という話ではありません。

それぞれの投資や再編は別個の事業判断です。

重要なのは、日本製鉄がすべての設備を均等に残すのではなく、

どこで、何を作り、どこへ投資するのかを選び直している

ということです。

では、なぜ和歌山の薄板だったのか

ここが、今回もっとも気になるところです。

なぜ和歌山の薄板ラインが、集約される側に入ったのでしょうか。

公表資料から確認できる範囲では、日本製鉄は薄板事業全体について、

  • 競争力の高い製造ラインへの注文集約
  • より需要地に近い場所での生産

を進める方針を示しています。

その中で、和歌山の薄板ラインが休止対象となり、ハイカーボン製品の生産は堺へ集約されることになりました。

ここまでは確認できます。

一方で、

「和歌山の設備が古かったから」

「物流条件が悪かったから」

「海外投資のために和歌山が切られたから」

といった、和歌山固有の決定打までは公表資料から確認できません。

つまり、

「なぜ薄板事業を集約するのか」は分かる。
でも「なぜ数ある拠点の中で、和歌山のこの設備だったのか」までは、外から完全には見えない。

ここは無理に答えを作らない方がいいでしょう。

少なくとも言えるのは、和歌山だけを単独で縮小しているのではなく、日本製鉄全体で生産体制を組み替える中で、和歌山の薄板が集約対象になったということです。

では、和歌山には何が残るのか

ここまで、なくなる設備を見てきました。

しかし、和歌山地区には今も製銑・製鋼と鋼管製造の機能が残っています。

中でもシームレスパイプは、継ぎ目のない鋼管です。

高い強度や信頼性が求められる石油・天然ガス開発、社会インフラなどで使われています。

和歌山で作られた鉄は、必ずしも和歌山や関西だけで使われるわけではありません。

世界のエネルギー開発やインフラにつながる製品が、今もこの場所から送り出されています。

そう考えると、現在起きていることを単純に「和歌山製鉄所の縮小」とだけ表現するのも少し違います。

幅広い製品を一つの拠点で作る姿から、担う製品や工程が変わっていく。

少なくとも現在の設備配置を見る限り、和歌山はそんな転換の途中にいるように見えます。

ただし、日本製鉄が「和歌山を今後は鋼管に特化する」と公式に表明しているわけではありません。

ここは、事実と解釈を分けておく必要があります。

企業としては合理的。でも、地域から見れば簡単ではない

日本製鉄側から見れば、生産設備を集約する理由は理解できます。

国内の鉄鋼需要がかつてほど伸びない中、全国に似た設備を抱え続けるより、競争力の高いラインへ生産をまとめる。

その一方で、高級鋼や電炉、海外の成長市場など、今後競争力を持てる分野へ投資する。

企業戦略としては合理的です。

しかし、地域から見れば、それだけでは終わりません。

鉄鋼業は、和歌山市の製造品出荷額等の約3割を占めます。

日本製鉄の和歌山地区だけでも、約2,200人が働いています。

さらにその周囲には、設備保全、物流、工事など、製鉄所の操業と関係する企業があります。

設備の一部がなくなることが、地域に何の影響も与えないとは考えにくいでしょう。

ただし、その影響を数字で断定することもできません。

今回の薄板ライン休止によって雇用が何人減るのか。

市の税収がどれだけ変わるのか。

住宅や賃貸需要へどれほど影響するのか。

そこまでを直接示す公表データは、今回の調査では確認できませんでした。

だから、

「和歌山経済に大打撃」

と書くのは早い。

でも、

「設備が一つ止まるだけだから、大した話ではない」

と見るにも、鉄鋼業の存在は大きすぎます。

この間にあるのが、いまの和歌山です。

「鉄の街」はなくなるのではなく、役割が変わっている

高炉は2基から1基になりました。

海南では小径シームレス鋼管のラインが一つ止まりました。

そして次は、和歌山地区の薄板ラインが2026年度末を目途に休止します。

設備の数だけを見れば、確かに和歌山の製鉄拠点は小さくなっています。

しかし、日本製鉄全体を見れば、それだけでは説明できません。

別の国内拠点では設備投資が進み、海外でも大型投資が続いています。

日本製鉄は鉄を作ることそのものをやめようとしているわけではありません。

どこで、どんな鉄を作るのかを選び直している。

その大きな再編の中に、和歌山もあります。

だから、これから和歌山製鉄所を見るとき、

「いつかなくなるのか」

だけを問うのでは、少し足りないのかもしれません。

薄板はなくなる。

一方で、製銑、製鋼、鋼管は残る。

では、日本製鉄という世界的な鉄鋼メーカーの中で、これから和歌山は何を作る場所になるのでしょうか。

紀の川河口に広がる、見慣れた巨大な工場。

景色は昨日までと同じように見えても、その中で担っている役割は、もう少しずつ変わり始めています。

主な出典

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