和歌山というと、海、山、温泉、みかん、梅。だいたいこのあたりが、まず頭に浮かびます。
もちろん、それは間違っていません。むしろ強い。白浜の海、熊野の山、みなべの梅、紀の川沿いのみかん。県外の人に説明するときも、分かりやすい入口になります。
ただ、地図を少し拡大していくと、別の和歌山が見えてきます。住宅地の奥、道路沿い、川に近い場所に、知らない会社や工場が点在している。店でも名所でもないけれど、地図上では妙に気になる名前です。
今回から始める「地図で見つけた和歌山の会社」は、そういう場所を軽く拾っていくシリーズです。取材記事ではありません。会社を広告のように持ち上げる企画でもありません。公式情報をもとに、和歌山の地図にある産業の点を、読み物として眺めてみます。
地図を見ていたら、気になる会社があった
和歌山市の南東側、寺内のあたりを地図で見ていると、住宅や道路の間に工場や事業所の名前が出てきます。観光目線だと海沿い、温泉地、城、神社、道の駅に目が行きます。けれど地図は、もう少し無愛想です。
「ここに何かある」とだけ教えてくる。
そのひとつが、オーエフ工業株式会社の和歌山工場です。住所は、公式サイトの会社案内で「和歌山市寺内732-1」と案内されています。本社は大阪府四條畷市にあり、和歌山には工場がある、という位置づけです。
では、オーエフ工業は何をしている会社なのでしょうか。名前だけ見ても、すぐには分かりません。食品でも観光でも小売でもなさそうです。ここで少し調べると、和歌山の見え方が変わってきます。
オーエフ工業は何をしている会社?
公式サイトによると、オーエフ工業はステンレスを中心とした素材に、冷間ロールフォーミングなどの技術を用いて、さまざまな形状の型鋼を成形する会社です。
冷間ロールフォーミング。普段の会話では、まず出てこない言葉です。ざっくり言えば、金属の板や帯状の材料を、常温に近い状態でロールに通しながら少しずつ曲げ、目的の形にしていく加工方法です。公式サイトでは、ステンレスなどを折紙のように折り曲げていろいろな形にする加工方法として説明されています。
同社の製品紹介には、建築部材、型鋼、パイプ、異形管、フラットバーなどが並びます。完成品として店頭に置かれる商品というより、建物や設備、機械の中で使われる部材に近いものです。
つまり、私たちが日常で会社名を見る機会は少ない。けれど、社会のどこかでは、その加工技術や部材が必要とされている。地図上で見つけた会社名の奥に、そういう世界があります。
和歌山市寺内にある和歌山工場
和歌山工場がある寺内は、観光地として名前が出る場所ではありません。和歌山城や和歌浦、加太、白浜、熊野古道のように、旅行の目的地として語られるエリアではないと思います。
でも、だからこそ面白いところがあります。和歌山の地図は、観光名所だけでできているわけではありません。住宅地があり、道路があり、物流や製造の拠点があり、毎日そこで働く人がいます。
工場というと、海沿いの大規模な工業地帯を想像しがちです。もちろん和歌山にもそういう場所はあります。ただ、寺内のような市街地の外れや郊外にも、ものづくりの拠点はあります。地図を拡大しなければ、たぶん見落としてしまうタイプの和歌山です。
建物やインフラを支える“見えない部材”
建築部材や型鋼、異形パイプ、フラットバーと聞いて、すぐに具体的な絵が浮かぶ人は少ないかもしれません。
けれど建物や設備は、目立つ外観だけで成り立っているわけではありません。手すり、レール、枠、補強材、機械まわりの部材。名前を知らない部品が、全体の形や強度や使いやすさを支えています。
こういう「見えない部材」は、地域メディアでは扱いにくい存在です。写真映えしにくいし、観光のような分かりやすい体験にもつながりにくい。けれど、和歌山の産業を考えるなら、むしろ現実に近い存在です。
海や温泉は、和歌山の顔です。でも、道路沿いの工場や、住宅地の近くにある事業所も、同じ地図の上にあります。
観光だけではない和歌山の顔
和歌山を外に紹介するとき、観光資源に頼るのは自然です。海がある。山がある。温泉がある。果物がある。世界遺産がある。どれも強い入口です。
ただ、その入口だけで見ていると、和歌山は少し平面的になります。遊びに行く場所、食べに行く場所、癒やされに行く場所。そういうイメージは大切ですが、そこに住み、働き、つくり、運ぶ人たちの風景は見えにくくなります。
オーエフ工業の和歌山工場は、その見えにくい側へ入るための小さな入口です。会社の規模や技術を大げさに語る必要はありません。和歌山市寺内にそういう製造拠点がある。それだけでも、地図の読み方は少し変わります。
地図で見ると、和歌山はまだまだ知らない会社だらけ
地図を眺める楽しさは、目的地を探すことだけではありません。知らない名前に引っかかることです。
「この工場は何を作っているのか」
「この会社はなぜここにあるのか」
「この道路沿いに事業所が多いのはなぜか」
そうやって見ていくと、和歌山は観光地の集合ではなく、仕事と暮らしが重なった場所として見えてきます。
もちろん、地図と公式サイトだけで分かることには限界があります。現場の詳しい仕事、働く人の話、地域との関係までは、外から断定できません。だからこのシリーズでは、分からないことは分からないままにします。
それでも、地図上の一社に目を止めるだけで、和歌山の輪郭は少し増えます。海、山、温泉、みかん、梅。その隣に、工場や事業所や見えない部材を置いてみる。そう見れば、和歌山はまだまだ知らない会社だらけです。