暮らしの中の和歌山

そのスポンジ、海南かも。和歌山の家庭用品産業を読み直す

海南市はなぜ「家庭用品のまち」になったのか

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家の中を見回してみる。スポンジ、ボディタオル、風呂ふた、トイレブラシ、洗濯ハンガー。そのどれかは、和歌山県海南市の会社が企画し、全国の売場へ届けているものかもしれない。

和歌山の名産と聞くと、みかん、梅、醤油、熊野古道、白浜の海が思い浮かびます。どれも分かりやすい和歌山です。

でも、和歌山は観光地や食べ物だけでできているわけではありません。台所、浴室、トイレ、洗濯まわりにある日用品の裏側にも、和歌山があります。とくに海南市は、家庭用品の産地として長い歴史を持つまちです。

この記事では、株式会社オーエを象徴的な会社として扱いながら、主役はあくまで海南市の家庭用品産業に置きます。会社紹介でも、観光パンフレットでもなく、「家の中に入り込んでいる和歌山」を読み直してみます。

家の中にあるかもしれない和歌山

スポンジやトイレブラシを買うとき、メーカー名まで意識する人は多くないと思います。価格、サイズ、色、泡立ち、乾きやすさ、置きやすさ。だいたいは、目の前の使いやすさで選びます。

けれど、その「ふつうの日用品」の裏面を見ていくと、海南市に本社や拠点を置く会社名に出会うことがあります。オーエ、アイセン、オカ、小久保工業所、サンコー。得意分野は違いますが、いずれも海南の家庭用品産業を語るうえで外せない会社です。

ここで大事なのは、「海南本社だから海南で製造している」と短絡しないことです。現在の日用品は、国内生産、海外生産、OEM、PB、輸入販売が組み合わさっています。海南の会社が企画・開発・販売を担い、国内外の工場や取引先と連動して売場に届く。そういう見方のほうが、今の家庭用品産業には近いはずです。

なぜ海南市に、スポンジと風呂ふたの会社が集まったのか

海南市の家庭用品産業の源流は、野上谷のシュロ産業にあります。シュロは、縄、網、ほうき、たわしなどに使われる素材でした。海南とその周辺では、山の素材を集め、加工し、流通させる仕組みが早くから育っていきました。

最初からプラスチック製品の町だったわけではありません。もともとは、地域の自然素材を暮らしの道具へ変える産地でした。そこに問屋、職人、加工、流通が重なり、家庭用品の土台ができていきます。

この歴史を踏まえると、海南の家庭用品産業は単なる「工場誘致」の話ではありません。素材があり、作る人がいて、売る仕組みがあり、生活の変化に合わせて商品を変えてきた。そういう積み重ねの結果として、現在の産地があります。

シュロの町は、どうやってスポンジの町になったのか

海南の家庭用品産業が面白いのは、素材が変わっても産地が残ったことです。

シュロから、パームへ。さらに化学繊維、プラスチック、スポンジへ。生活様式が変わると、家庭の道具も変わります。畳の部屋を掃くほうき、たわしでこする台所から、スポンジで洗う流し台、浴室ブラシ、ボディタオル、樹脂製の風呂ふたへ。素材の転換は、そのまま暮らし方の転換でもありました。

海南の強さは、シュロ製品だけにとどまらず、その変化に合わせて商品を広げてきたところにあります。現在の家庭用品は、キッチン、バス、トイレ、ランドリーなど、水まわりを中心に広がっています。かつての縄やほうきの町は、いつの間にか、全国の水まわり用品に関わる町になっていました。

なお、海南の家庭用品については「全国シェア約8割」といった表現がしばしば使われてきました。ただし、本記事ではそれを最新統計として断定しません。古い研究や広報で繰り返されてきた表現として扱い、現在の厳密な比率は発表元や調査条件を確認する必要がある、としておきます。

オーエだけではない、海南の家庭用品メーカー群

海南の家庭用品産業は、一社だけで語るより、複数の会社が近い距離で集まっていることを見るほうが分かりやすいです。

オーエは、スポンジ、風呂ふた、ボディタオル、トイレ用品、ランドリー用品などを扱う水まわり総合型のメーカーとして見ることができます。アイセンは、たわし、スポンジ、ブラシ、清掃用品などの流れを持ち、業務用やOEMの入口も見えます。オカは、バス・トイレまわりのマットやファブリック、生活空間の提案に強い会社です。

小久保工業所は、キッチン、ランドリー、収納、バス・トイレ、防災用品など、量販店や100円ショップ時代の生活雑貨に近い領域で存在感があります。サンコーは、掃除用品、吸着マット、防災トイレ、ペットやシニア向け用品など、機能性のある生活用品へ広げています。

つまり海南は、「同じような会社が並ぶ町」ではありません。総合型、ファブリック型、OEM/PB型、機能素材型、伝統素材型が重なっている町です。ここに産地としての厚みがあります。

オーエで見る「水まわり総合メーカー」の現在地

その中でオーエは、海南の家庭用品産業を説明する入口として分かりやすい会社です。

創業時は、たわし・ブラシの製造販売から始まっています。その後、スポンジ加工、風呂ふた、バス用品、ランドリー用品へと広がり、現在はキッチン、バスルーム、トイレ、ランドリー、ボディケアなど、家の水まわりに深く関わる商品群を持っています。

ここでオーエを「すごい会社」と持ち上げたいわけではありません。むしろ、オーエを見ると、海南の産地がどう変化してきたかが見えます。シュロのたわしから、スポンジへ。風呂ふたへ。ボディタオルへ。洗濯まわりへ。水を使う場所の近くに、海南の家庭用品が少しずつ入り込んでいく流れです。

海外関連会社や国内外の生産体制も公開されていますが、公開情報だけで各商品の生産地やOEM/PB比率を細かく断定することはできません。言えるのは、海南の会社が、企画・開発・販売・品質管理と、国内外の製造や流通を組み合わせながら全国の売場へつないでいる、という範囲です。

全国の棚に散っていく海南発の日用品

海南の家庭用品は、観光土産のように「和歌山」と大きく書かれて売られているわけではありません。むしろ、そこが面白いところです。

ホームセンター、ドラッグストア、スーパー、100円ショップ、ECモール。家庭用品は、全国の棚に散っていきます。買う人にとっては、和歌山の商品というより、泡立ちがいいスポンジ、洗いやすい風呂ふた、場所を取らないトイレブラシ、干しやすいハンガーです。

だからこそ、「見たことある日用品の裏に海南があるかもしれない」という発見が生まれます。和歌山は、目立つ観光名産としてだけでなく、メーカー名を意識しないまま使っている暮らしの道具として、全国の家に入り込んでいるのかもしれません。

現地調査や売場調査は、この記事の時点ではまだ行っていません。実際にどの商品がどの店に並んでいるか、原産国表示や販売者表示がどうなっているかは、今後売場で確認する余地があります。

地図で見ると分かる、海南市内の企業集積

海南市内の地図で見ると、家庭用品メーカーの拠点は一か所に固まっているわけではありません。大野中、南赤坂、阪井、小野田、野上新など、市内の複数エリアに広がっています。

オーエやサンコーのある大野中周辺、オカのある南赤坂、小久保工業所のある野上新、アイセンのある小野田、サンベルムや関連物流拠点が見える阪井周辺。こうした地名を並べると、海南の家庭用品産業は、単独の工場ではなく、まちの中に点在する企業群として見えてきます。

野上谷のシュロから始まった産業が、現代の企業拠点、物流、営業、海外連携へ広がっている。地図はその変化を静かに教えてくれます。

和歌山を観光ではなく、暮らしの中から見る

海南の家庭用品産業を読むと、和歌山の見え方が少し変わります。

和歌山は、行楽で訪れる場所でもあります。果物を買う場所でもあります。歴史や信仰の道を歩く場所でもあります。でも、それだけではありません。家の中で毎日使う、名前をあまり意識しない道具の産地でもあります。

そのスポンジ、海南かも。そう思って家の中を見回すだけで、和歌山は少し近くなります。観光地としての和歌山ではなく、暮らしの中に入り込んでいる和歌山。海南市の家庭用品産業は、その見方を教えてくれる産業です。