
2023年7月、和歌山県日高川町に物流拠点「SkyHub日高川町」が開設された。[1]
ドローンやEVによる配送、買い物代行、フードデリバリー、新聞配送、そして複数の物流会社から届く荷物をまとめる「共同配送」。人口減少と高齢化が進む山間地域で、物流そのものを組み替えようとする取り組みだった。
ところが約3年後の2026年9月、地元紙はSkyHub日高川町が9月末で閉鎖され、新聞配送も終了すると報じた。同紙によると、買い物代行とフードデリバリーも9月1日から休止している。[2]
「ドローン物流がうまくいかなかった」。そう捉えれば話は単純だ。
しかし3年間をたどると、大きな壁になったのはドローンを飛ばす技術そのものではなく、複数の物流会社の荷物を集め、一つの物流網として持続させることだったことが見えてくる。
SkyHubは「ドローンを飛ばす事業」ではなかった
2023年度、日高川町では6,000万円規模の「新スマート物流実装事業」が実施された。デジタル田園都市国家構想交付金を活用し、NEXT DELIVERYが地域物流の仕組みづくりを担った。[3]
SkyHubではドローンだけでなく、EVや貨物車、買い物代行、フードデリバリーなどを組み合わせる。その中でも事業を持続させるうえで重要だったのが「共同配送」だ。
複数社の荷物を地域の拠点に集め、最後の区間をまとめて配送する。日高川町でも2023年の開始時には、年度内に物流会社と連携した共同配送を始める構想が示されていた。[1]
つまり目指したのは、単にドローンで荷物を運ぶことではない。山間部の物流そのものを組み替えることだった。
実際に地域を支えていたのは、人と車だった
2024年時点で、日高川町は日常の配送についてEVが中心だと説明していた。ドローンは使われていたものの、地域物流の主役になっていたわけではない。[4]
地元紙によると、2024年には川原河地区で23世帯・約30部の新聞を届ける取り組みも行われた。2025年の町議会では、買い物代行や弁当配送について固定客が増えていると町側が説明している。[5] [6]
つまりSkyHubは「誰にも使われなかったサービス」ではない。
一方、ドローンの年間配送回数、EV配送件数、買い物代行の注文件数、売上など、採算を評価するために必要な数字は公開資料では確認できなかった。地元紙はドローン配送について「利用が少なく採算が合わなかった」と報じているが、その規模までは検証できない。[7]
必要とする人はいた。それでも、事業全体を維持するのは難しかった。
最大の壁は「荷物をまとめること」だった
2025年、町議会ではSkyHubが「自走していくと計画された3年目」と認識されていた。[6]
ところが共同配送は通常運用まで至っていない。お中元やお歳暮の時期にスポットで受託していたものの、それ以外の期間は共同配送に至らず、町側は事業の経営状態を「非常に厳しい」と説明している。[6]
地元紙は、既存の配送事業者との調整が進まず、十分な荷物を集約できなかったことなどを背景として報じている。[2] [7]
ただし、料金、責任分担、配送データ、個人情報、既存営業網など、具体的にどこで調整が止まったのかは公開資料から確認できない。
だから「荷物が少なかったから失敗した」と単純化するのも正確ではない。
確認できるのは、共同配送を通常運用まで持っていけなかったことだ。
3年目に突きつけられた「自走」
2023年度には6,000万円規模、2024年度には防災ドローンや次世代インフラ整備を含む2,000万円規模の事業が確認できる。[3] [8]
一方、2025年度と2026年度の当初予算では、「新スマート物流推進協議会会費」各1万円は確認できるものの、以前のような大型のSkyHub関連委託費は名称上確認できない。[9] [10]
これだけで「2025年度から町の支援がなくなった」とは言えない。ただ、「自走していく3年目」という認識と合わせると、2025年が転換点だったことは読み取れる。
問われるものが、「新しい技術を使えるか」から「この仕組みを事業として回せるか」へ変わった。
小菅村では、何が違ったのか
比較材料になるのが山梨県小菅村・丹波山村だ。
同地域では複数の物流会社が参加し、共同配送を実運用まで進めた。事業者側は、従来6台だった配送車両を「トラック4台+ドローン1台」に削減したとしている。[11]
日高川町との違いは、共同配送を通常運用まで持っていけたかどうかにある。
ただし、小菅村を「成功例」と呼ぶのは早い。共同配送の実装や車両削減と、黒字化や行政支援なしの自立運営は別だからだ。
小菅村・丹波山村は、日高川町が越えられなかった共同配送の壁を、少なくとも一度は越えた先行例と見る方が正確だろう。
山の物流は、民間だけで維持できるのか
NEXT DELIVERYはSkyHub事業そのものから撤退しているわけではない。2026年にもドローン運航や導入支援、SkyHub Provider License(SPL)、人材育成などを展開している。[12] [13]
さらに2026年1月、奈良県野迫川村で始まった取り組みでは、地域物流の「準公共化」という考え方が掲げられた。[14]
「日高川町でうまくいかなかったから準公共化へ転換した」と結びつけることはできない。それでも、この言葉は示唆的だ。
人口が減れば配送する荷物は減る。家々が点在すれば一軒まで届ける距離は長くなる。配達員の確保も難しくなる。しかし食料や新聞、生活用品が届く必要性までなくなるわけではない。
そこで生まれるのが、社会的には必要なのに、民間事業としては採算を取りにくいという問題だ。
ドローンは飛んだ。その物流を誰が支えるのか
地元紙によれば、日高川町では防災用ドローンの飛行ルート40コースのうち22コースが整備済みで、残る18コースも2026年度中に整備予定とされている。[7]
ただし、飛行ルートがあることと、災害時に実際にドローンを飛ばせる体制があることは同じではない。機体の所有者、操縦者、維持管理主体や費用などは公開情報では確認できない。
住民向けサービスにも課題が残る。地元紙によると、買い物代行とフードデリバリーは休止し、新聞配送も終了する。2026年9月15日時点で、それらを具体的に引き継ぐサービスは確認できていない。[2]
一方で、2025年には買い物代行や弁当配送の固定客が増えていた。[6]
「必要とする人がいる」と「商売として成立する」は同じではない。
日高川町で問われたのは、ドローンが飛べるかどうかではなかった。
荷物を誰が集めるのか。最後の一軒まで誰が届けるのか。そして、その費用を誰が負担するのか。
SkyHub日高川町の3年間を「ドローン物流が失敗した」で終わらせれば、その本質は見えない。
ドローンは飛んだ。
その先に残ったのは、山で暮らし続けるための物流を、社会の誰が支えるのかという問いだった。
関連記事
参考資料・出典
- エアロネクスト「日高川町で新スマート物流SkyHubの社会実装がスタート」(2023年7月・開始と年度内の共同配送目標)
- 紀州新聞(2026年9月11日・拠点閉鎖、買い物代行・フードデリバリー休止、新聞配送終了の報道)
- 内閣官房・内閣府「ドローンを活用した新スマート物流実装事業」(日高川町・事業費60,000千円)
- 日高川町広報2024年2月号 5ページ(電気自動車での配送が中心)
- 日高新報(2024年2月1日・新聞配送試行23世帯、約30部の報道)
- 日高川町議会だより第76号 11ページ(2025年8月発行・自走、固定客、共同配送、経営状態)
- 日高新報(2026年9月10日・撤退背景、防災22ルート完成・18ルート整備予定の報道)
- 日高川町議会だより第72号 6ページ(2024年度の新スマート物流実装事業2,000万円と使途)
- 日高川町 令和7年度一般会計当初予算書(新スマート物流推進協議会会費)
- 日高川町 令和8年度一般会計当初予算書(新スマート物流推進協議会会費)
- エアロネクスト(2025年6月13日・小菅村、丹波山村の共同配送と車両集約についての事業者発表)
- NEXT DELIVERY事業案内「SkyHub Provider License」(2026年9月15日確認)
- NEXT DELIVERY事業案内「SkyHub Training Center」(2026年9月15日確認)
- エアロネクスト(2026年1月27日・野迫川村の「準公共化」モデルの実証実験)
参照日:2026年9月15日。町・国の資料、事業者発表、地元紙報道を区別して参照しています。事業者発表による車両削減は、収益性や行政支援なしの自立運営を確認したものではありません。