残念な和歌山

移住者を奪い合う前に――「3人目を諦めなくていい和歌山」はつくれるか

移住者の獲得競争だけで、和歌山の人口減少は止められるのか。自然減、多子世帯の生活負担、既存制度、財源、公平性を検証し、住宅・移動・教育・就労を支える和歌山版モデルを考える。

和歌山の郊外住宅地で、父母と高校生・小学生・幼児の3人の子どもがミニバンで通学・送迎の準備をする生活風景のイメージ
和歌山の郊外住宅地で、3人の子どもを育てる家庭の通学・送迎を描いたイメージ。

全国の自治体が、若者や子育て世帯を呼び込もうとしている。

移住支援金、住宅取得補助、空き家改修補助、起業支援、就職支援。自治体の移住サイトを開けば、似たような制度が並んでいる。

もちろん、移住政策そのものが悪いわけではない。

若い世代が地域に入り、仕事をし、空き家に住み、子どもが学校へ通う。地域を維持するうえで、移住者の存在は重要である。

しかし、日本全体で若い世代が減っているなか、すべての自治体が同じ人を呼び込もうとすれば、人口政策は椅子取りゲームになっていく。

ある自治体の転入者は、別の自治体の転出者でもある。

では、和歌山県はこれからも、限られた移住者を全国の自治体と奪い合い続けるべきなのだろうか。

それより先に、すでに和歌山で暮らし、働き、子どもを育てている家庭が、経済的な理由で「3人目は無理だ」と諦めなくてもよい環境をつくれないだろうか。

これは、子どもを産むよう求める話ではない。

子どもが増えるほど重くなる住宅、移動、教育、送迎、親の仕事の負担を、地域が少しずつ軽くできないかという話である。

和歌山の人口減少は、移住者だけでは埋められない

和歌山県の2025年4月1日現在の推計人口は87万2,359人だった。

前年から1万2,268人減っている。

その内訳を見ると、出生数は4,468人、死亡数は1万4,967人で、自然減は1万499人。一方、県外からの転入者は1万4,235人、県外への転出者は1万6,004人で、社会減は1,769人だった。

人口減少数を自然減と社会減に分けて単純比較すると、この1年間に減った人口の約86%を、出生数を死亡数が大きく上回る自然減が占めた。

県外へ出ていく若者を減らすことも、県外から人を呼び込むことも必要である。

ただ、毎年約1万人の自然減が発生している県で、移住者を増やすことだけを人口対策の中心に据えるのは、かなり無理のある計算だ。

国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来推計人口では、和歌山県の人口は2020年の92万2,584人から、2050年には63万1,619人へ減ると見込まれている。

同じ推計から20~39歳の女性人口を合計すると、2020年の8万974人から2050年には4万6,294人へ、約43%減る。

出生率が全国平均を少し上回ったとしても、出産年齢にある人口が減れば、出生数は減り続ける。

和歌山の人口問題は、「転出者を移住者で埋めれば解決する」という段階を、すでに超えている。

移住すれば解決、とはならない

移住政策には、もう一つ難しい問題がある。

和歌山に移住したからといって、生活上の課題がすべて解決するわけではない。

「和歌山には仕事がない」と単純に断定するのは正確ではない。人手不足の業種もあり、求人そのものは存在する。

問題は、希望する職種、賃金、勤務地、勤務時間が、移住希望者の条件と合うかどうかである。

本人の仕事が見つかっても、配偶者の仕事が見つからないこともある。専門職やキャリア職では、転職先の選択肢が限られる。勤務先まで車で長距離を移動しなければならない地域もある。

さらに、都市部から移り住んだ家庭には、移住前には見えにくかった生活条件が待っている。

自治会活動、地域行事、草刈り、ごみ出し、PTA、子ども会。地域によっては、住民同士の関係が生活に大きく影響する。

こうした活動を一律に「田舎の悪習」と切り捨てるべきではない。防災や高齢者の見守り、道路や水路の維持など、地域生活を支える役割もある。

ただ、どのような地域活動があり、住民にどの程度の負担が求められるのかを説明せず、「自然豊かで人が温かい」とだけ発信する移住政策は不親切である。

和歌山市などの地方都市も、山間部よりは便利だが、大阪や東京ほど仕事や交通、教育、医療の選択肢が多いわけではない。

住宅費が安くても、車両費、ガソリン代、保険料、通学費、送迎時間を含めると、生活コストの差が思ったほど大きくない家庭もある。

移住者数を数えるだけでは足りない。

5年後、10年後もその地域で暮らしているか。仕事を続けられているか。子どもが成長しても住み続けたいと思えるか。

本来、移住政策はそこまで追う必要がある。

それなら、今いる家庭を支える方が先ではないか

和歌山ですでに暮らしている家庭には、移住者とは違う強みがある。

すでに仕事があり、住宅があり、学校や保育園との関係があり、地域での生活経験もある。

その家庭が2人の子どもを育てながら、「本当はもう1人欲しいが、経済的に難しい」と考えているなら、その負担を軽くする政策には一定の合理性がある。

国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査では、予定する子どもの数が理想の子どもの数を下回る夫婦の52.6%が、その理由として「子育てや教育にお金がかかりすぎる」ことを挙げている。

特に、理想の子ども数が3人以上で、予定する子ども数が2人以上の夫婦では、59.3%が子育て・教育費を理由としていた。

もちろん、経済的な負担を減らせば、必ず3人目が生まれるわけではない。

年齢や健康、不妊、妊娠・出産への不安、育児疲労、仕事への影響、夫婦の考え方など、子どもの数を左右する要因は多い。

したがって、多子世帯支援を「出生数を増やす制度」として設計するのは危うい。

政策の目的は、子どもを産ませることではなく、すでにいる子どもの生活を守り、希望する家族の形を経済的な理由だけで断念しなくてよい環境をつくることに置くべきだ。

和歌山には、すでに子育て支援がある

ここで確認しておきたいのは、和歌山の子育て支援が何もないわけではないということだ。

国の児童手当は、2024年10月分から所得制限が撤廃され、対象が高校生年代まで拡大された。

第3子以降については、月額3万円が支給される。

2025年度からは、扶養する子どもが3人以上いる多子世帯について、一定の要件のもと、大学や専門学校などの授業料・入学金を国の上限額まで減免する制度も始まっている。

和歌山県と市町村にも、保育料、子どもの医療費、学校給食費などを軽減する制度がある。

田辺市では、病児保育に加え、保育施設などから病児保育施設まで子どもを送迎する「お迎えサービス」も実施している。単に費用を補助するだけでなく、親が仕事を続けるための移動まで支える点は注目に値する。

したがって、和歌山の課題は「子育て支援がない」ことではない。

医療、給食、就学前の保育については、すでに一定の支援がある。

それでも負担が残りやすいのが、広い住宅への住み替え、通学や通院、日常の送迎、高校期の教育費、病気になった子どもへの対応、そして親の就労継続である。

子どもが3人になると、和歌山で何が重くなるのか

子どもが3人になると、食費や衣類費が増えるだけではない。

家族全体の生活構造が変わる。

広い家が必要になる

子どもが小さい間は同じ部屋で暮らせても、成長すれば部屋数や収納が必要になる。

駐車場も1台分では足りない家庭がある。

和歌山県内には約10万5,000戸の空き家があるが、空き家が多いことと、子育て家庭がすぐ住める広い住宅が多いことは同じではない。

老朽化、耐震性、断熱性、所有者との調整、改修費、学校や職場までの距離。家族向け住宅として使うには、相応の整備が必要である。

移住者向けの空き家改修支援だけでなく、すでに県内に住んでいる多子世帯の住み替えや住宅改修にも、同じ発想を広げる余地がある。

車と送迎が増える

和歌山では、日常生活を車に依存する地域が多い。

県の地域公共交通計画では、県内すべての市町村で1世帯当たりの自動車保有台数が1.5台を超えている。

子どもが3人いれば、保育園、小学校、中学校、高校、病院、習い事、部活動の場所と時間が重なる。

親は単にガソリン代を負担するだけではない。送迎のために仕事を早退し、勤務時間を減らし、場合によっては働き方そのものを変える。

だから、自動車購入費を一律に補助するよりも、通学定期、病児保育の送迎、地域タクシー、遠距離通院など、必要な移動そのものを支援する方が制度として説明しやすい。

高校期に支援が薄くなる

小中学校の給食費が無償になっても、高校に進学すると新たな負担が増える。

通学定期、昼食、制服、教材、部活動、検定、修学旅行。

紀南や中山間地域では、希望する高校までの距離が長く、通学費と送迎負担が重くなりやすい。

大学授業料の支援が拡充されても、高校卒業までの負担で家計が疲弊すれば、その制度を十分に活用できない。

親が働き続けにくくなる

子どもが複数いれば、誰かが体調を崩す回数も増える。

病児保育を利用できなければ、親が仕事を休む。欠勤が続けば収入や評価に影響する。時短勤務や非正規雇用に切り替え、最終的に退職するケースもある。

多子世帯の負担は、支出の増加だけではない。

働けないことによる収入減も含まれる。

ここを支えずに、出産時だけ祝い金を支給しても、長期的な家計負担は軽くならない。

出産祝い金だけでは、たぶん続かない

全国には、第3子以降の出生時にまとまった祝い金を支給する自治体がある。

分かりやすく、住民にも伝わりやすい。

しかし、子どもを育てる期間は18年以上続く。

出生時の一度だけ支援しても、住宅、保育、教育、移動、送迎、親の就労といった負担は、その後も毎年発生する。

福井県では、保育料だけでなく、一時預かり、病児保育、送迎、高校や大学段階の教育費支援など、多子世帯が各年齢で直面する負担を組み合わせて支援している。

一方、岐阜県は第2子以降に10万円を支給する出産祝い金を2025年度で終了した。みやま市でも第3子以降の出産祝い金を廃止し、筑後市も2027年3月末で廃止する予定である。

祝い金は分かりやすい一方、国制度との重複や、出生時にしか効かないという弱点がある。

和歌山が目指すなら、派手な祝い金競争ではなく、生活上の負担を継続的に下げる制度ではないだろうか。

「3人以上だけ支援するのは不公平」という反論

多子世帯支援を提案すれば、当然、反論が出る。

「子どもが1人、2人の家庭も苦しい」

これはそのとおりだ。

医療、給食、保育、基礎的な教育支援は、子どもの人数にかかわらず維持すべきである。

そのうえで、子どもの人数に比例して増える負担について、多子加算を設ける。

全世帯向けの基礎支援を削り、3人以上の家庭だけを優遇する制度にすれば、納得は得にくい。

「子どものいない住民に不公平だ」という意見もある。

子どもの有無だけで行政サービスの損得を測れば、そう感じる人がいるのは当然だ。

だからこそ、多子世帯支援を「子どもを産んだ人への褒賞」と説明してはいけない。

子どもの貧困を防ぎ、教育機会を守り、親の就労継続を支え、将来の地域サービスを維持するための投資として説明する必要がある。

高所得の多子世帯まで一律に支援するのかという論点もある。

これも、所得制限を設けるか、設けないかの二択にする必要はない。

給食、医療、通学など、子どもの生活に直結する基礎支援は所得制限を設けず、住宅改修や家事支援など金額の大きい支援は、所得や自己負担能力に応じて段階化する方法が考えられる。

そして最も慎重に扱うべきなのが、「子どもを産めという圧力にならないか」という問題である。

制度の目的は出生奨励ではない。

すでにいる子どもと家庭を支え、希望する家族形成を妨げる負担を軽くすることである。

出生数は政策効果を見る一つの指標にはなっても、唯一の目標にしてはいけない。

財源はどうするのか

ここまで支援策を並べれば、必ず聞かれる。

そのお金は、どこから出すのか。

和歌山県の2026年度一般会計当初予算は6,499億円である。

仮に年間3億円の事業を実施すれば、県予算の約0.046%。5億円なら約0.077%、10億円なら約0.154%に相当する。

割合だけを見れば、検討不可能な規模ではない。

ただし、「県予算の0.1%程度だから簡単に出せる」という話ではない。

自治体の予算には、人件費、社会保障費、公債費、施設維持費など、簡単には削れない支出が多い。

新しい制度をつくるなら、既存の子育て、移住、定住、住宅、空き家、交通、物価高対策を棚卸しし、重複や効果を確認する必要がある。

国の補助金や目的が限定された財源を、勝手に別事業へ回すこともできない。

和歌山県内の正確な対象世帯数は、確認できた公開資料だけでは確定できない。そこで以下では、制度規模を考えるための便宜的な仮定として7,000世帯を置く。

7,000世帯へ均等に配れば、3億円でも1世帯当たり年間約4万3,000円。5億円で約7万1,000円、10億円で約14万3,000円である。

広く薄い現金給付にすると、予算の割に生活が変わらない可能性がある。

それなら、使い道を絞った方がいい。

例えば、年間3億円のモデル事業として、次のような配分が考えられる。

支援分野 年間モデル額
高校通学・教材・部活動などの教育支援 1億4,000万円
病児保育・一時預かり・送迎支援 8,000万円
公営住宅や空き家の改修・住み替え支援 6,000万円
制度運営・効果検証 2,000万円
合計 3億円

これは予算要求額ではなく、議論のための試算である。

実際には、対象世帯数、利用率、既存制度との重複、国や市町村の負担割合を精査しなければならない。

財源は、県だけで負担するのではなく、県と市町村の共同事業とする。

住宅や送迎については、現金を配るだけでなく、県営・市営住宅、空き家バンク、既存の病児保育、スクールバス、地域交通など、すでにある行政資産やサービスを組み合わせる。

企業版ふるさと納税や寄附は、実証事業や設備整備には使えても、恒久的な給付制度の主財源には向かない。

寄附額によって毎年支援内容が変わる制度では、家庭が将来設計に使えないからだ。

和歌山版「多子世帯生活基盤サポート」

和歌山で多子世帯支援を始めるなら、最初から大規模な現金給付をする必要はない。

まずは3億円規模、3年間のモデル事業として試してはどうだろうか。

制度の柱は四つである。

1.高校通学・教育ポイント

第3子以降について、通学定期、教材、部活動、検定、学習・体験活動に使える年額ポイントを付与する。

現金を一律に配るのではなく、家庭が必要な用途を選べるようにする。

地域によって通学距離や交通事情が異なるため、上限額は調整してもよい。

2.広い住宅への住み替え支援

公営住宅の広い住戸への優先入居、空き家改修、耐震・断熱改修、住み替え費用を支援する。

移住者だけを対象にせず、すでに県内に住んでいる家庭も利用できるようにする。

空き家対策と子育て支援を、別々の政策として扱わない発想が必要である。

3.病児保育・一時預かり・送迎の多子加算

子どもの人数が多い家庭ほど、病児保育、一時預かり、家事支援、送迎サービスを利用できる枠を増やす。

費用負担だけでなく、親が休み、仕事を続けるための時間を支える。

4.仕事を続けられる職場への支援

子どもの看護休暇や柔軟な勤務制度を導入する県内中小企業を支援する。

親に給付するだけでなく、急な休みに対応する企業側の代替要員確保や業務改善も対象にする。

多子世帯の生活を支えるには、家庭と職場の両方を変えなければならない。

最初から正解と決めず、3年間試す

モデル事業は、和歌山市のような都市部、田辺市のような広域市、中山間・沿岸部の小規模町村で実施する。

地域によって必要な支援が違うからだ。

都市部では住宅や保育、中山間地域では通学と送迎、広域市では病児対応や移動の負担が大きいかもしれない。

評価するのは、出生数だけではない。

  • 教育・移動・保育にかかる家計負担
  • 多子世帯の県外転出率
  • 親の就業継続率
  • 欠勤や時短勤務の状況
  • 病児保育、送迎、家事支援の利用率
  • 子どもの部活動や体験活動への参加
  • 制度の申請率
  • 1世帯当たりの行政コスト

こうした指標を毎年公開する。

第3子以降の出生数も確認すべきだが、唯一の成果指標にはしない。

3年間実施して効果が乏しければ、内容を変更する。必要性が確認できなければ、終了する。

子育て政策だからといって、一度始めた制度を聖域にしてはいけない。

子どもを産んだらお金を配る県ではなく、育て続けられる県へ

移住者を呼び込むことと、今いる家庭を支えることは、二者択一ではない。

和歌山に必要な仕事を担う人を呼ぶことも、若者の県外流出を減らすことも重要である。

しかし、和歌山の人口減少の大部分が自然減によって起きている以上、「県外から何人呼んだか」だけで人口政策を評価する時代ではない。

多子世帯を支援すれば、出生数が増えるとは断定できない。

祝い金を出したからといって、必ず3人目を持とうと思う家庭が増えるわけでもない。

それでも、すでに和歌山で暮らす家庭が、住宅、移動、教育、送迎、仕事の負担によって生活を圧迫されているなら、そこを支える意味はある。

和歌山が目指すべきなのは、子どもを産んだ家庭に一度だけお金を渡す県ではない。

子どもが増えるほど生活が苦しくなる構造を、一つずつ軽くする県である。

移住者を奪い合う前に、まずは今いる家庭が、和歌山で育て続けられる環境をつくる。

「3人目を諦めなくていい和歌山」は、本当に実現できるのか。

最初から答えを決める必要はない。

まずは3億円、3年間。

派手な祝い金ではなく、生活基盤を支えるところから試してはどうだろうか。

参考資料