COOL WAKAYAMA考察

和歌山マリーナシティは滞在型リゾートになれるか――地方観光地再生のヒントを考える

既存施設を昼・夜・翌朝と地域周遊へつなぐ、「再編集」の条件を考える

和歌山マリーナシティを地方観光地再生の視点から考える記事サムネイル
海辺の複合観光施設を、滞在と周遊の視点から考えるイメージ。

和歌山マリーナシティには、テーマパーク、市場、ホテル、温泉、マリーナ、イベント機能が集まっています。ここで問いたいのは、施設が足りるかではありません。日帰りで完結しがちな複合観光施設を、夜と翌朝、さらに周辺地域まで含む一つの旅へ再編集できるかです。

これは和歌山だけの問題ではありません。地方観光地には、個々には魅力的な施設がありながら、宿泊観光、夜間観光、観光回遊へつながりにくい例が少なくありません。本稿では公開情報で確認できる現状と、編集部としての提案を区別して整理します。

IRがなくなっても、マリーナシティは営業を続けている

和歌山マリーナシティはテーマパークだけの場所ではありません。公式サイトと各施設の案内では、次のような機能が確認できます。

機能公開情報で確認できる主な施設・用途
遊ぶポルトヨーロッパ
食べる・買う黒潮市場、紀ノ国フルーツ村
泊まる和歌山マリーナシティホテル
くつろぐ紀州黒潮温泉
海を楽しむヨット倶楽部、和歌山セーリングセンター
集まるイベントホール、ホテルの宴会・会議利用
暮らし周辺住宅地、マリーナ保育園(観光施設ではない)

黒潮市場では生マグロの解体ショーが案内され、ホテルは全室オーシャンビューを掲げます。ホテル宿泊者は徒歩約3分の紀州黒潮温泉を滞在中利用でき、ポルトヨーロッパには食事・温泉と組み合わせるセット商品もあります。したがって「IRがなくなって何も残らなかった場所」と見るのは正確ではありません。

出典:和歌山マリーナシティ公式ポルトヨーロッパ「お得なセットプラン」和歌山マリーナシティホテル「ご宿泊」

「施設はあるのに滞在が伸びない」は、地方観光地に共通する問い

セット商品やパーク券付き宿泊プランが既にある以上、「施設同士を組み合わせる」発想そのものは存在します。次に問われるのは、その組み合わせが滞在時間を延ばし、日帰り観光から宿泊観光へつながり、平日や閑散期にも来訪理由をつくり、地域へ人を動かせるかです。

公開情報から、日帰り客と宿泊客の比率、施設横断商品の利用数、施設別売上、ホテル稼働率は確認できません。そのため「日帰り客ばかり」「黒潮市場しか稼いでいない」とは断定できません。一方、公開されている商品構成から、宿泊や地域周遊へ広げる余地を検討することはできます。

日帰り観光から宿泊へ転換できない「時間の分断」

昼に遊び、食べ、買って帰る流れは、一日のお出かけ先として成立します。滞在型リゾートを目指すなら、午後、夕方、夜、翌朝を一つの旅行商品にする必要があります。花火などの季節催事は公式のイベント案内で確認できますが、開催日・内容は変わるため、常設の夜間体験としては扱えません。

必要なのは、季節イベントの有無にかかわらず、夕方から訪れる理由、夕食後の過ごし方、温泉、宿泊、翌朝の体験を見通せる設計です。施設を横に増やすのでなく、時間軸に沿って旅程を編集する視点です。

複合観光施設を一つの旅にできない「施設の分断」

テーマパーク、市場、温泉、ホテルが単独で利用できることは強みです。ただ、黒潮市場を目的に来た人が温泉やホテルへ、ホテル宿泊者が翌日の市場や周辺観光へ進む道筋が、利用者にとって一つの旅として見えるかは別の課題です。

午後に遊ぶ/夕方に海産物を味わう/温泉へ入る/海辺で夜を過ごす/ホテルに泊まり、翌朝に地域へ出る――この連続が「泊まると完成する場所」という印象をつくる。

これは新施設を断定的に求める提案ではありません。既存のパス、飲食、温泉、宿泊を、割引の集合ではなく、選びやすいストーリーとして見せる再編集案です。

観光回遊を止める「地域間交通の分断」

マリーナシティの中だけで滞在が完結すれば、周辺への波及は限られます。和歌浦、雑賀崎、海南、和歌山市中心部には接続できる観光資源がありますが、とくに自家用車を使わない旅行者には、移動時間、乗換、最終便、予約の分かりやすさが重要です。

公式アクセス案内では、JR和歌山駅・南海和歌山市駅・海南駅方面からの路線バス、自家用車、駐車場が案内されています。周遊を商品化するなら、紹介文だけでなく、実際のダイヤ・最終便・予約導線を毎回確認できる形にする必要があります。和歌浦、雑賀崎、海南、市中心部との組合せは、本稿の編集上の提案です。

出典:和歌山マリーナシティ「アクセス」和歌山バス

大阪IRと競争せず、MICE後の周遊先を考える

大阪府の公開資料では、大阪・夢洲のIRは2030年秋ごろの開業を目指し、国際会議場・展示等施設を含むMICE機能、ホテル、飲食・物販、エンターテインメント等を備える計画です。マリーナシティが同種の巨大複合施設として競う、という発想は現実的ではありません。

一方で海、温泉、魚介を軸にした食、徒歩圏に集まる施設、周辺の和歌浦・雑賀崎・海南という地域資源は別の価値になり得ます。大阪でのMICE後に和歌山で一泊する、というのは既存の商品化を示す事実ではなく、本稿の提案です。自動的な送客は起きないため、実現には旅行会社、交通事業者、宿泊施設、自治体による具体的な商品と交通の設計が必要です。

出典:大阪府「大阪IR(統合型リゾート)説明会」大阪・夢洲地区IRの実施状況報告書

現実的な再編集案5つ

1.「夕方から泊まる」商品を強くする

午後からのパーク、夕食、温泉、宿泊、翌朝の朝食を一つの選択肢として見せる。既存のパーク券付き宿泊プランを土台に、夜と翌朝の価値を明確にする提案です。

2.イベント終了後の交通を整える

花火など夜間イベントの日は、主要駅への臨時便や宿泊者向け送迎を実証的に検討する余地があります。実施の有無や条件は交通事業者・主催者の判断によるため、現行サービスとしては断定しません。

3.和歌浦・雑賀崎・海南との周遊を商品にする

1日目にマリーナシティ、2日目に和歌浦・雑賀崎、または海南の食・工芸、和歌山市中心部を組み合わせる。予約可能な交通、共通チケット、荷物預かり、所要時間の見えるモデルコースが鍵になります。

4.平日の利用目的を増やす

ホテルの宴会・会議利用、温泉、レストラン、マリン環境を生かし、小規模会議、企業研修、合宿、学校研修などを滞在型で設計する。大阪IRの大型MICEと同じ規模を追うのでなく、海辺の小規模利用に焦点を置く提案です。

5.旧IR予定地は段階的に考える

旧IR予定地の現在の所有・利用、法的条件は本稿で一次資料から確定できません。したがって活用可能とは断定せず、確認が得られる区画がある場合に限り、屋外イベント、スポーツ、マリンレジャー、食フェス、期間限定施設などで需要を測るという選択肢を検討すべきです。

地方観光地再生の条件は「新設」より「再編集」

マリーナシティから全国の地方観光地に引き直すと、重要なのは次の五つです。

  1. 施設数ではなく、滞在時間を成果として見る。
  2. 日帰り商品と宿泊商品を別々に売らない。
  3. 夜間交通と翌朝の体験をセットで考える。
  4. 単独施設でなく、周辺地域を含む観光回遊を商品化する。
  5. 巨額開発の前に、小さな実証で需要データを積み上げる。

結論として、和歌山マリーナシティの可能性は、第二の巨大開発を待つことだけにありません。黒潮市場で食べ、ポルトヨーロッパで遊び、温泉に入り、ホテルに泊まり、翌日に和歌山の町を歩く。すでにある資産を一つの旅として完成させる「再編集」こそ、日帰り型から滞在型リゾートへ近づく現実的な入口です。

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参考資料

和歌山マリーナシティ公式サイト
和歌山マリーナシティホテル公式サイト
ポルトヨーロッパ「お得なセットプラン」
大阪府「大阪IR(統合型リゾート)説明会」
和歌山バス