COOL WAKAYAMA考察

東京で無人タクシー? それ、和歌山でもやりませんか。

太地町の自動運転から考える「地方こそレベル4」の可能性

和歌山の道路を走る未来的な無人タクシーをイメージした記事サムネイル
無人タクシーのイメージです。実在の車両・運行や和歌山の実景を記録した写真ではありません。

東京で、運転手のいないタクシーが走る時代が近づいている。

米WaymoとGO、日本交通は2026年9月、2027年に東京で無人の自動運転配車サービスを商用開始することを目指すと発表した。

計画では、GOまたはWaymoのアプリから呼び出せるようにし、当初の車両から段階的に約100台規模まで拡大する構想だ。ただし実現には、規制当局の承認や技術・運行面の検証完了が前提となる。

出典:Waymo「Opening our doors to Tokyo riders in 2027 with Nihon Kotsu and GO」

このニュースを見て、最初に思った。

それ、和歌山でもやりませんか。

いや、むしろ東京以上に、和歌山のような地方にこそ、自動運転を導入する意味があるのではないか。

和歌山ではすでに、太地町で自動運転サービスが日常交通として使われている。和歌山市でも、将来のレベル4を見据えた自動運転バスの公道実証が行われてきた。

ただ、調べてみると話は単純ではない。

「地方は交通量が少ないから、自動運転もしやすい」

そんな簡単な話ではなかった。

それでも和歌山には、自動運転を必要とする理由がある。

この記事で考えたいのは、

「和歌山で自動運転はできるのか」ではなく、「どこからなら無人運転を始められるのか」だ。


和歌山では「移動時間」が、そのまま「運転時間」になる

筆者自身、和歌山で暮らしていた頃、職場やスーパー、大型商業施設まで車で20分、30分走ることは珍しくなかった。

もちろん、「和歌山県民は平均30分運転している」という話ではない。あくまで筆者自身の生活実感だ。

イオンモール和歌山へ行く。

メッサオークワ ガーデンパーク和歌山店へ行く。

スーパーセンターオークワ パームシティ和歌山店へ行く。

駐車場が広く、車で行きやすい大型商業施設は、和歌山の日常生活に深く組み込まれている。

統計を見ても、2025年3月末時点の和歌山県は、自家用乗用車が1世帯あたり1.22台。全国平均の1.01台を上回る。

近畿運輸局の同じ統計では、大阪府0.62台、京都府0.80台に対して、和歌山県は1.22台となっている。

出典:国土交通省近畿運輸局「府県別の自家用乗用自動車(四輪)保有台数及び普及状況」

地方の車社会については、よく「車がないと不便」と説明される。

でも、自動運転を考えるなら、もう一つ重要なことがある。

車社会では、移動時間の多くを自分自身が運転しなければならない。

電車なら、移動中にスマートフォンを見てもいい。本を読んでもいい。仕事をしてもいい。眠っていてもいい。

しかし、自分で運転する30分は、当然ながら運転に集中しなければならない。

往復なら1時間だ。

もし、その時間を運転しなくてよくなったらどうだろう。

自動運転は、高齢者の移動手段やバス運転手不足だけのための技術ではない。

地方で暮らす人が毎日使っている「運転時間」を、別の時間に変える技術でもある。

ここに、都会とは少し違う自動運転の価値がある。


都会では「選択肢」。地方では「暮らせる条件」になるかもしれない

東京で無人タクシーが走れば、もちろん便利になる。

駅から離れた場所へ行く。荷物を持って移動する。深夜に帰宅する。

用途はいくらでもある。

ただ、東京には鉄道、地下鉄、バス、タクシーなど、すでに多くの移動手段がある。

地方では事情が違う。

車を運転できること自体が、生活の前提になっている地域が少なくない。

人口減少や高齢化、バス・タクシーの運転手不足が重なれば、公共交通を維持する難しさも増す。

熊野地域でも、観光と暮らしの両面で「交通空白」が課題になっている。

高齢になって免許を返納したくても、その後の移動手段がなければ簡単には手放せない。

だから地方におけるレベル4の価値は、「未来の便利なタクシー」が一つ増えることだけではない。

自分で運転できなくても暮らせる地域をつくれるか。

そこにある。


太地町では、すでに「自動運転を使う生活」が始まっている

和歌山県内には、すでに興味深い事例がある。

太地町だ。

太地町では2022年11月から、自動運転カートを使った移動サービスを本格運用している。

当初は町役場を起点に、漁協スーパー、老人憩いの家、病院などを巡る約3.2kmのルートを2台体制で運行。町営バスが入りにくい住宅密集地を補う生活交通として導入された。

出典:国土交通省近畿地方整備局「太地町 自動運転サービス資料」

2024年4月には新たに「あたみルート」が開設され、現在は2ルート・計4台へ拡大している。近畿地方整備局は、既存ルートから新ルートへ乗り継ぐ利用者も見られると紹介している。

出典:国土交通省近畿地方整備局「和歌山県太地町の自動運転サービス」

利用規模も拡大している。

月間利用者は、

  • 2022年11月:617人
  • 2023年10月:998人
  • 2024年8月:1,381人
  • 2024年12月:1,551人
  • 2025年8月:1,697人

そして近畿地方整備局の公表では、実証期間を含む累計利用者は2026年4月末時点で50,094人となっている。

ただし、この数字を単純に、

「自動運転が人気になったから増えた」

と説明することはできない。

2024年にはルートと車両が増えた。利用できる地域と輸送能力そのものが拡大しているからだ。

一方で、太地町のサービスは実証実験で終わらず、2022年の本格実装以降、地域交通として運行が続いている。

つまり太地町から読み取れるのは、

地方でも、自動運転を生活交通として運用し続けることはできる。

ということだろう。

スーパーへ行く。

病院へ行く。

役場へ行く。

自動運転は、未来の乗り物を体験するイベントではなく、日常の移動に入っている。


ただし、太地町はまだ「無人」ではない

ここは明確に分けておきたい。

太地町の自動運転サービスには現在も補助員が関わっており、完全無人運行ではない。近畿地方整備局の2026年3月のレポートでも、「太地町の自動運転を支える補助員」が紹介されている。

出典:国土交通省近畿地方整備局「太地町の自動運転を支える補助員」

だから、

「和歌山ではすでに無人自動運転が実用化している」

と書くのは正しくない。

太地町が示しているのは、

地方でも自動運転を日常交通として使う仕組みが成立し得ること。

その先に、無人化という次の問いがある。

補助者が1台ごとに必要な状態では、人手不足という問題は残る。

運行要員の確保。

シフト。

人件費。

こうした構造は、従来の交通から完全には切り離せない。

太地町で「使われること」は見えてきた。では次に、無人化まで進められないか。

和歌山で無人タクシーを考える理由、太地町の自動運転実績、和歌山市と南紀白浜の導入候補をまとめた図解
太地町ではすでに自動運転が生活交通として運用されている。一方で完全無人ではない。和歌山市の実証結果と白浜の観光需要を手がかりに、和歌山でレベル4を始めるならどこからかを考えた。

和歌山市の実証は「地方だから簡単」を否定した

では、東京より交通量の少ない地方都市なら、レベル4も実現しやすいのだろうか。

和歌山市の実証結果を見ると、そう簡単ではない。

和歌山市は2024年度、JR和歌山駅から和歌山城を通り、再びJR和歌山駅へ戻る約5.3kmの循環ルートで、レベル2の自動運転バスを実証した。

インフラ連携や遠隔監視も取り入れ、将来の社会実装を見据えた実証だった。

出典:和歌山市「令和6年度自動運転バスの実証運行について」

しかし、実証結果の自動運転率は51%

和歌山市の公表資料によると、大きな要因となったのが信号通過時の手動介入だった。

さらに、交通量が多い場合の車線変更、右折時の対向車や歩行者の検知などでも、人による介入が発生した。

出典:和歌山市「令和6年度自動運転実証運行結果について」

地方都市でも、交差点はある。

信号がある。

歩行者もいる。

自転車も走る。

対向車も来る。

地方だから、自動運転が簡単になるわけではない。

ここは、当初の仮説とは違った。

しかし、この実証は同時に、どこで手動介入が起きたのかというデータも残した。

和歌山市自身も、手動介入が比較的少なかった区間を、将来レベル4のルートを検討する際の参考指標にするとしている。

だったら、発想を変えればいい。


「和歌山全部」を走らせなくていい

ここで重要になるのが、ODDという考え方だ。

Operational Design Domain。

自動運転システムが作動できる場所、道路、時間帯、天候、速度などの条件を限定する考え方である。

つまり、

「和歌山県内なら、どこへでも行ける完全自動運転車」

を最初からつくる必要はない。

まず、走れる場所だけを小さく切り出す。

和歌山市なら、すでに自動運転の実走データがあるJR和歌山駅から和歌山城周辺を中心に、手動介入の少なかった区間や条件をさらに絞り込んでいく。

もちろん、今すぐレベル4にできるという意味ではない。

実際に2024年度の実証でも、信号連携や右折など複数の課題が確認されている。

だからこそ、

全国どこでも走れる完璧な自動運転が完成するまで待つのではなく、

まず「和歌山で走れる短い区間」をつくる。

そんな始め方があってもいい。


白浜なら「観光客が最初に乗る」モデルも考えられる

もう一つ、和歌山らしい場所を挙げるなら南紀白浜だ。

白浜町の資料によると、2024年の観光客総数は3,184,528人

約318万人が訪れている。

内訳は、宿泊客約173万人、日帰り客約145万人だった。

出典:白浜町「宿泊事業者説明会資料/白浜町における観光客推計」

熊野白浜リゾート空港。

JR白浜駅。

アドベンチャーワールド。

とれとれ市場。

白浜温泉街。

こうした主要拠点が比較的まとまったエリアに存在する。

ここからは、COOL WAKAYAMA編集部としての提案だ。

例えば、

空港とアドベンチャーワールド。

あるいは、

空港と温泉街。

目的地が明確な区間を、最初のODD候補として調査してみる。

「白浜は自動運転しやすい」と断定しているわけではない。

道路幅。

交通量。

交差点。

歩行者や自転車。

繁忙期の渋滞。

台風や豪雨。

レベル4に適するかどうかは、詳細な道路調査をしなければ分からない。

それでも白浜には、一つ大きな特徴がある。

最初の利用者を想定しやすい。

年間300万人規模の観光需要があり、空港や駅から観光拠点へ移動する需要が存在する。

観光客が無人モビリティに乗る。

そこで運行ノウハウを蓄積する。

その先に、住民の買い物や通院といった生活交通への展開を考える。

「観光客のためだけの自動運転」ではなく、

観光需要を、新しい地域交通を育てる入口として使う。

白浜なら、そんな発想もできそうだ。


便利なだけでは、少しつまらない

ここからは完全に編集部としての提案だ。

地方交通の話になると、自動運転はどうしても、

「高齢者の足」

「運転手不足対策」

「赤字路線対策」

という文脈で語られやすい。

もちろん、どれも重要だ。

でも、それだけでは少しつまらない。

どうせ新しい交通をつくるなら、

高齢者が仕方なく乗る乗り物ではなく、若い人も観光客も乗りたくなる乗り物にできないだろうか。

車両が停まっていたら写真を撮りたくなる。

空港に着いた観光客が「あれに乗りたい」と思う。

子どもが「未来の車だ」と喜ぶ。

そして、高齢者も普通にスーパーや病院へ使う。

安全性。

価格。

運行頻度。

乗り降りのしやすさ。

それらが最優先なのは当然だ。

その上で、デザインや乗車体験まで考える。

「社会課題を解決するために仕方なく導入した乗り物」ではなく、

その地域にあること自体が少し誇らしくなるモビリティ。

それくらいを目指してもいいと思う。


和歌山を「未来の交通を試す場所」にできないか

今回調べてみて、一つ分かったことがある。

和歌山は、

「地方だから自動運転しやすい場所」ではない。

和歌山市の実証を見るだけでも、公道の完全無人化は簡単ではない。

それでも、

太地町では、自動運転が生活交通として運用され続けている。

和歌山市には、公道実証で蓄積されたデータがある。

白浜には、年間300万人規模の観光需要と空港がある。

そして和歌山では、多くの人の日常が車によって支えられている。

だったら、

全国どこでも走れる未来を待つのではなく、和歌山で走れる場所から始めればいい。

和歌山市の実証区間から。

白浜空港周辺から。

太地町で続いている生活交通の、その次へ。

小さく始め、安全に走れる範囲を少しずつ広げる。

目指すのは、

「免許を返納しても困らない地域」

だけではない。

「今日は自分で運転しなくていい」と思える地域だ。

南紀白浜空港に降りたら、未来的な無人タクシーが待っている。

観光客も、高齢者も、仕事で訪れた人も、それを普通に使っている。

そんな景色が和歌山の日常になったら、かなり面白い。

和歌山は、自動運転に向いているからやるのではない。

自動運転を必要とする理由が強いから、挑戦する価値がある。

東京で無人タクシーが始まるなら。

次は和歌山でやってみてもいいんじゃないか。


主な出典

  1. Waymo
    https://waymo.com/blog/2026/09/opening-tokyo-in-2027-with-nihon-kotsu-go/

  2. 国土交通省近畿運輸局
    https://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/content/2024youran7-1.pdf

  3. 国土交通省近畿地方整備局「和歌山県太地町の自動運転サービス」
    https://www.kkr.mlit.go.jp/road/dgmx/jidouunten/taiji.html

  4. 国土交通省近畿地方整備局 太地町資料
    https://www.kkr.mlit.go.jp/road/dgmx/jidouunten/or2riv000001mdlw-att/jidouunten-taiji.pdf

  5. 国土交通省近畿地方整備局「太地町の自動運転を支える補助員」
    https://www.kkr.mlit.go.jp/road/dgmx/jidouunten/or2riv000001mdlw-att/a8aihh0000005k43.pdf

  6. 和歌山市「令和6年度自動運転バスの実証運行について」
    https://www.city.wakayama.wakayama.jp/kurashi/douro_kouen_machi/1007740/1061551.html

  7. 和歌山市「令和6年度自動運転実証運行結果について」
    https://www.city.wakayama.wakayama.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/057/677/20250327-6.pdf

  8. 白浜町「白浜町における観光客推計」
    https://www.town.shirahama.wakayama.jp/material/files/group/12/syukuhakujigyousyasetsumeikaisiryou.pdf

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