都心で、定期借地権付きマンションが増えています。
定期借地権付きマンションとは、土地を所有するのではなく、一定期間だけ土地を借りて建物を所有するマンションのことです。土地を買わないぶん、所有権マンションより価格を抑えやすい。地価が高騰する都心では、「高すぎる所有権マンション」に代わる選択肢として注目されています。
不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年のまとめ」によると、2025年の首都圏新築分譲マンションの発売戸数は2万1,962戸で、1973年以降の最少を更新しました。一方で、平均価格は9,182万円、1平方メートルあたり単価は139.2万円となり、いずれも最高値を更新しています。さらに、定期借地権付き物件の供給は1,502戸となり、過去最多だった2008年の1,281戸を上回りました。
つまり、マンションは少なくなり、高くなり、その中で「土地を買わないマンション」が増えています。
一見すると、定借マンションは合理的に見えます。
都心に住みたい。
駅近に住みたい。
でも所有権マンションは高すぎる。
そこで、土地代を丸ごと背負わずに住める定借マンションが選ばれる。
しかし、定借マンションは単に「安いマンション」ではありません。それは、期限付きのマンションです。
定借マンションは、最後に土地を返すマンション
一般定期借地権は、一般論として、存続期間を50年以上として設定される借地権です。国土交通省の整理では、一般定期借地権は、契約の更新をしない、存続期間の延長をしない、建物の買取請求をしない、という3つの特約を定めることができるとされています。期間満了時には、原則として借地人が建物を取り壊し、土地を返還します。
ここが、所有権マンションとの大きな違いです。
所有権マンションは、建物が古くなっても土地の持分は残ります。建替えができるか、売却できるか、管理が維持できるかという問題はありますが、土地所有権は残ります。
一方、定借マンションは、借地期間が終われば原則として土地を返します。建物を残したまま地主に渡すのではなく、建物を取り壊して更地で返すのが基本になります。
つまり、定借マンションは「買ったマンション」というより、長期間使える住まいを買っている感覚に近い。
問題は新築時ではなく、中古と出口で出てくる
定借マンションの難しさは、新築時には見えにくいものです。
新築時には、借地期間がまだ長い。たとえば70年の定借なら、購入時点では「70年もあれば十分」と感じやすい。子育て、通勤、老後の入口くらいまではカバーできるかもしれません。
しかし、中古になると話が変わります。
築20年なら残り50年。
築40年なら残り30年。
築50年なら残り20年。
築60年なら残り10年。
残存期間が短くなるほど、買う人は限られます。住宅ローンの期間も取りにくくなる可能性があります。将来売却できるのか、いくらで売れるのか、そもそも誰が買うのかという問題が出てきます。
特に、最後の所有者は重い。
定借マンションの出口は、各部屋ごとの売却では完結しません。最後は建物全体を解体し、土地を返す必要があります。区分所有者が多ければ、管理組合として、解体、明渡し、滅失登記、敷地返還まで進めなければなりません。
所有者不明の住戸がある。
相続未了の部屋がある。
賃借人が住んでいる部屋がある。
解体準備金が足りない。
満了時期が近いのに、まだ退去調整が終わらない。
そんな状況になれば、定借マンションは「安く買えた物件」ではなく、「最後をどう処理するか」という清算問題になります。
定借マンションが悪いわけではありません。問題は、所有権マンションと同じ感覚で買ってしまうことです。
地代、前払地代、解体準備金も見る必要がある
定借マンションを見るときは、販売価格だけでは判断できません。
毎月の地代がいくらか。
地代は将来改定されるのか。
保証金はあるのか。
前払地代方式なのか。
解体準備金はいくら積み立てるのか。
期間満了時に不足した場合はどうなるのか。
借地権を譲渡するときに地主の承諾が必要なのか。
再契約の可能性はあるのか、それとも明確にないのか。
国土交通省の定期借地権の解説では、前払地代方式について、地主側は期間に応じて収入計上し、借地人側も期間に応じて経費化できる仕組みとして整理されています。また、保証金と異なり期間満了時に前払地代は返還されない一方、中途解約時には未経過分を返還する必要があるとされています。
こうした仕組みは、地主と借地人の双方にメリットを生む可能性があります。ただし、買う側から見れば、単純な「物件価格」だけではなく、土地を使うための総コストを見なければなりません。
では、和歌山には関係ない話なのか
ここまで読むと、定借マンションは東京や大阪の話に見えます。
実際、和歌山で定借マンションが急増しているという話ではありません。むしろ和歌山では、新築分譲マンション市場そのものが大きくありません。不動産経済研究所の「全国 新築分譲マンション市場動向 2025年」によると、2025年の和歌山県の新築分譲マンション発売戸数は0戸でした。前年は125戸です。
つまり、和歌山で「定借マンションが増えるかもしれない」と書くと、少し無理があります。
和歌山で考えるべきなのは、定借マンションそのものではありません。むしろ、「土地を所有すること」と「土地を使うこと」を分ける考え方です。
和歌山なら、定借マンションより「定借戸建」ではないか
和歌山では、場所によっては2,000万円台で土地付き戸建が買える。そう考えると、「わざわざ土地を借りて戸建を建てる意味があるのか」と思うかもしれません。
たしかに、郊外で土地が安い地域なら、定借戸建の説得力は弱い。所有権付きの戸建が手の届く価格で買えるなら、多くの人は土地付き戸建を選ぶでしょう。
しかし、定借戸建が成立する可能性があるのは、そういう場所ではありません。
たとえば、駅に近い土地。
学校や病院、商業施設に近い土地。
古くからの地主が所有していて、売却には抵抗がある土地。
駐車場や老朽アパート跡地として低利用になっている土地。
法人や寺社、個人地主が「手放したくはないが、活用はしたい」と考えている土地。
こうした場所なら、定借戸建という考え方は面白い。
地主は土地を売らずに済む。
住む人は土地代を丸ごと背負わずに済む。
地域にとっては、空き地や低利用地に人が戻る。
つまり、定借戸建は「安い住宅」ではなく、「土地を売りたくない人」と「土地まで買うのは重い人」をつなぐ仕組みになり得ます。
地主にとってのメリット
地方都市には、土地を売りたくない地主がいます。
先祖代々の土地だから売りたくない。
今は使わないが、将来のために残しておきたい。
相続人のために土地を持っておきたい。
でも、空き地のままでは固定資産税だけがかかる。
そうした地主にとって、定借戸建は一つの選択肢になります。
土地を売らずに、50年などの長期で貸す。
毎月の地代を得る。
満了時には、原則として更地で返してもらう。
もちろん、簡単な話ではありません。地代滞納、建物管理不全、借地権譲渡、相続、満了時の解体不履行など、契約で詰めるべきことは多くあります。
それでも、「売るか、何もしないか」だけではない第三の選択肢としては考える価値があります。
住む人にとってのメリット
住む人にとっての定借戸建のメリットは、土地代を全部背負わずに戸建の暮らしを持てることです。
マンションではなく戸建に住みたい。
庭や駐車場がほしい。
子育てしやすい場所に住みたい。
でも、土地まで買うと総額が重い。
そういう世帯にとって、定借戸建は「所有」と「賃貸」の中間のような住まい方になります。
ただし、注意点も大きい。
土地は自分のものにならない。
毎月地代がかかる。
将来売却しにくい可能性がある。
残存期間が短くなるほど価値が下がりやすい。
子どもや孫に資産として残すには向きにくい。
満了時には、建物を解体して土地を返す必要がある。
つまり、定借戸建は「資産として土地を持つ住宅」ではありません。「一定期間、その土地で暮らす権利を得る住宅」と考えたほうがいい。
和歌山で定借戸建が向く場所、向かない場所
和歌山で定借戸建が向くのは、土地が安い場所ではありません。
むしろ、土地を買うと総額が重くなるが、暮らす価値は高い場所です。
たとえば、和歌山市駅やJR和歌山駅に近いエリア。
生活利便性の高い中心部。
古い住宅や駐車場が点在する市街地。
地主がまとまった土地を持っているが、売却には踏み切りにくい場所。
一方で、郊外の土地付き戸建が2,000万円台で買える地域では、定借にする意味は薄い。土地付きで買えるなら、わざわざ期限付きの土地利用権を選ぶ理由が弱いからです。
だから、和歌山で定借戸建を考えるなら、単に「安くするため」ではなく、土地を動かすための仕組みとして見るべきです。
定借は悪ではない。でも、所有権の代わりではない
定借マンションも、定借戸建も、悪い仕組みではありません。
土地を売らずに活用したい地主にとっては、合理的な選択肢になり得ます。土地代をすべて背負わずに住まいを持ちたい人にとっても、条件が合えばメリットがあります。地域にとっても、空き地や低利用地を動かすきっかけになるかもしれません。
ただし、定借は所有権の代用品ではありません。
期限がある。
地代がある。
満了時の出口がある。
将来売却するときには、残存期間が問題になる。
最後は、土地を返すという前提で設計しなければならない。
都心で増える定借マンションは、地価高騰の中で生まれた現実的な選択肢です。
一方、和歌山で考えるなら、定借マンションを無理に当てはめるより、「土地を買わない戸建」「土地を売らずに貸す住宅地」という発想のほうが、地方都市らしい可能性があります。
土地を持つことと、土地で暮らすことは、同じではありません。
和歌山のような地方都市では、土地が余っているように見えても、本当に住みやすい場所の土地が動かないことがあります。
その土地をどう使うのか。
売るのか、貸すのか、眠らせるのか。
定借戸建は、その問いに対する一つの実験になるかもしれません。
参考・確認用URL
不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年のまとめ」
不動産経済研究所「全国 新築分譲マンション市場動向 2025年」
国土交通省「定期借地権の解説」
国土交通省「前払地代方式」