
横浜市の山中竹春市長について、第三者調査委員会が「決して看過できない重大なパワハラ行為」があったと認定した。
報告書では、怒鳴る、人格を否定するような発言、深夜や休日の業務連絡、人事権を背景に職員を支配するような言動など、多数の事実が認定されている。
だが、この問題を詳しく見ていくと、単に「市長の言動がひどかった」という話では終わらない。
むしろ大きな問題として浮かび上がるのは、市長本人が問題の当事者になったとき、市長の人事権から独立して、誰が調査し、誰が止めるのかという自治体ガバナンスの問題である。
そしてこれは、横浜だけの話ではない。
では、和歌山県や県内の市町村で、市長や町長自身によるハラスメントが疑われた場合、職員はどこへ相談し、誰が調査するのだろうか。
横浜市長の問題を入口に、和歌山の自治体制度について考えてみたい。

横浜市長に何が認定されたのか
横浜市は2026年7月30日、山中市長の言動について調べていた第三者調査委員会の報告書を公表した。
調査は弁護士3人が担当し、市長本人や元人事担当幹部への複数回の聴取に加え、特別職7人、一般職49人、外部関係者1人の計57人を聴取した。職員アンケートでは160人が追加ヒアリングに同意し、情報提供窓口にも51件の申出が寄せられた。
第三者委員会が調査したのは、大きく七つのテーマだった。
市長室で怒鳴る、書類を投げるといった行為、「切腹」に関する発言、銃で撃つようなしぐさ、人格否定的な発言、深夜・休日の業務連絡、市長室への出入りを禁じる扱い、人事権を背景にした支配などである。
このうち多くの基礎事実が認められ、第三者委員会は、市長という圧倒的に優位な立場を背景に反復・継続された行為について、「重大なパワハラ」と総括した。
特に重く評価されたのが、人事権を背景にした言動だった。
報告書は、市長が人事上の権限を背景に職員を支配するような状態を生じさせたとして、これを「パワハラの最たるもの」とまで表現している。
単に「口が悪かった」「怒りっぽかった」で片付けられる話ではない。
一方で、報道された内容のすべてが、そのまま事実認定されたわけでもない。
例えば、「机をたたいた」とする一部の主張や、写真展での特定の発言、情報公開制度を避ける目的で私用メールを使わせたとする部分などは、証拠上認定できないとされた。
したがって、この問題を扱う際には、「七つの行為がすべてそのまま認定された」と単純化するのではなく、七つの調査テーマについて多数の事実が認定され、全体として重大なパワハラと評価されたと理解するのが正確だ。
問題は職員個人だけでなく、行政組織全体に及んでいた
第三者委員会が重く見たのは、直接被害を受けた職員だけではない。
市長から幹部へ強い圧力がかかり、そのストレスや要求がさらに下位職員へ伝わっていく。そうした「ハラスメントの連鎖」が起きる危険性も指摘された。
職員の心理的安全性や士気が損なわれ、市長との接触や意思決定への参加を避けるようになれば、最終的には行政サービスの停滞にもつながり得る。
つまり、首長によるパワハラは単なる労務問題ではない。
自治体のトップから始まった圧力が組織全体に広がれば、その影響を受けるのは最終的に住民である。
ここまで来ると、問題は「職場環境」の範囲を超えている。自治体ガバナンスそのものの問題だ。
市長の上司は、誰なのか
ここで素朴な疑問が出てくる。会社員が重大なパワハラをすれば、上司や人事部門が調査し、場合によっては懲戒処分を行う。では、市長がパワハラをした場合はどうなるのか。
市長は、一般職員とは立場が違う。地方公務員法上、市長は公選によって就く「特別職」にあたり、一般職員に対する通常の懲戒制度を、そのまま市長本人に適用する仕組みにはなっていない。
しかも市長は、市役所職員に対して大きな人事権を持っている。
つまり、市長の言動を調べる職員自身が、市長の人事権の下にいるという構造が生まれる。
横浜市の第三者調査委員会も、この点を制度上の問題として指摘した。従来の「横浜市職員ハラスメント対応指針」では、市長などの特別職が明確な対象となっておらず、市長の強い任命・人事権の下で通常の内部調査を行えば、萎縮や隠蔽の危険があるとされた。
今回の問題が、通常の内部通報ではなく、元人事担当幹部による実名での公開告発をきっかけに大きく表面化したことも象徴的だ。
第三者委員会は再発防止策として、特別職を対象にした制度の整備、外部の専門家による独立した第三者通報窓口、第三者による調査・勧告の仕組みなどを提言している。

選挙で山中市長を支えた側に責任はないのか
もう一つ考えたいのが、選挙で候補者を支えた政党や議員の責任である。
山中氏は2025年8月3日の横浜市長選で、66万3,876票、得票率52.00%を得て再選された。市長は、市民による直接選挙で選ばれている。
一方で、選挙戦では自民党横浜市連が山中氏を「支持」し、公明党も「横浜3総支部支持」として支援した。立憲民主党系も山中氏を支えた。
ここで注意したいのは、政党が市長を「任命した」わけではないという点だ。
したがって、山中市長を支援した政党や議員に、「自分たちが当選させたのだから、法的に辞めさせる義務がある」とまで言うのは正確ではない。
しかし、政治的な説明責任は別だ。選挙で、「この候補を支持してほしい」と有権者に呼びかけた以上、その人物に重大な問題が認定された場合、なぜ支持したのか。
当時何を確認していたのか。
現在、その支援判断をどう評価しているのか。を説明する責任はあるのではないか。
特に山中氏については、2021年の時点ですでに過去の音声をめぐり、パワハラ疑惑について記者会見で質問されていた。もちろん、当時第三者機関によるパワハラ認定があったわけではなく、2026年の認定内容と同一視することはできない。
ただ、2025年の選挙で支援を決める際、各政治勢力がこうした過去の疑惑や組織マネジメント能力をどのように検証したのかについて、今回確認した公開資料から詳細な審査内容は確認できなかった。
「審査していなかった」という意味ではない。しかし、どのような検証をして支持判断をしたのかが、市民から見える形になっていない。という点は残る。
「辞めてください」で、支援した側の検証は終わるのか
第三者調査後、自民・公明・立憲民主の横浜市会3会派は山中市長に辞職を求めた。市長に辞職を求めること自体は、一つの政治的判断である。
ただし、市長への辞職要求と、自分たちの支援判断の検証は別問題だ。
選挙のときには、「この人を市長に」と有権者に訴える。問題が明らかになると、「辞めてください」と本人に求める。それだけで、候補者を支持した側の検証まで終了したことになるのだろうか。
今回の調査では、支援政党・議員の責任について、法的責任、政治的責任、道義的責任を分けて考える必要があると整理した。
法的に市長を辞めさせる責任があるとは言えない。一方で、候補者を有権者へ推奨した政治活動について、後から検証し説明する政治的責任を問う余地は大きい。
もちろん、政党は捜査機関ではない。職員しか知らない内部事情まで、選挙前にすべて把握することも難しい。さらに、市長を最終的に選んだのは有権者自身であり、結果のすべてを支援政党へ転嫁するのも適切ではない。
その点を踏まえても、「支持した以上、自分たちの判断について何も説明する必要はない」とは言いにくい。選挙支援とは、市民への政治的な推奨行為だからだ。

辞職要求と不信任決議はまったく違う
では、議会が市長に問題があると判断した場合、辞職を求める以外に方法はないのか。地方自治法には「不信任議決」という仕組みがある。ただし、辞職要求と不信任決議は全く違う。
辞職要求は、あくまで政治的な意思表示だ。市長が応じなければ、それだけで市長の地位が失われるわけではない。一方、不信任決議には法律上の効果がある。
地方自治法178条では、最初の不信任議決について、議員数の3分の2以上が出席し、その出席者の4分の3以上が賛成する必要がある。成立した場合、市長は10日以内に議会を解散できる。解散しなければ、市長は失職する。
つまり不信任決議は、「市長だけをクビにするボタン」ではない。市長が議会を解散すれば、議員自身も選挙に戻される可能性がある。だから非常に重い制度なのである。
横浜市会では不信任に何票必要なのか
現在の横浜市会は86人。会派別では、自民党31、公明党15、立憲民主党9、日本維新の会8などとなっている。
辞職要求を行った自民・公明・立憲の3会派を合計すると55人。86人全員が出席する場合、最初の不信任決議には65人の賛成が必要になるため、3会派だけでは届かない。維新8人をすべて加えても63人で、全員出席なら2票足りない。
ただし法律上は「議員定数の4分の3」ではなく、「出席者の4分の3」が要件である。そのため、実際に必要な票数は採決時の出席者数によって変わる。
日本維新の会横浜市会議員団は8月14日、不信任決議案を提出する方針を表明した。
一方、自民・公明・立憲がなぜ辞職要求にとどまり、不信任への対応をどう考えているのかについて、今回確認した公開資料から一義的な理由は確認できなかった。ここを推測で「議会解散が怖いから」などと決めつけるべきではない。ただ、不信任決議には議会解散という大きな政治的リスクがあること自体は事実である。

全国では「市長を市長から独立して調べる」制度も始まっている
では、首長自身によるハラスメントをどう監督すればいいのか。
地方自治研究機構によると、2026年4月1日時点で、首長や議員によるハラスメントに特化した条例は172団体・189条例確認されている。
ただし大事なのは、条例があるかないかだけではない。見るべきなのは、首長本人が当事者になったとき、首長を迂回して相談・調査できるか。である。
例えば岐阜県池田町では、町長等や議員が当事者となる場合、第三者相談窓口や第三者調査委員会を利用できる仕組みが設けられている。三重県川越町でも、町長等が当事者となる場合の第三者相談窓口が明記されている。沖縄県浦添市では、市長、副市長、教育長等を対象とし、相談窓口を外部の専門機関に委託できる仕組みや、市長等が行為者となる案件を扱う審査会が設けられている。
共通する考え方は明確だ。市長本人が問題の当事者なら、市長の部下だけで調査を完結させない。これが制度設計の核心である。
では和歌山の自治体はどうなっているのか
ここで和歌山に戻りたい。地方自治研究機構が2026年4月1日時点で把握している、首長や議員のハラスメントに関する特化条例172団体の一覧を確認したところ、和歌山県内の自治体名は確認できなかった。
ただし、これは、「和歌山にはハラスメント対策がない」という意味ではない。職員向けのハラスメント防止規程や公益通報制度を設けている自治体はある。
問題は、その制度が、首長自身が加害者と申し立てられたケースでも機能するのか。である。
公益通報制度があっても、市長パワハラに使えるとは限らない
例えば和歌山市には内部公益通報制度がある。しかし制度上、暴行や脅迫などを伴わない通常のハラスメントや勤務条件に関する問題は、公益通報の対象外と明記されている。
つまり、「公益通報制度があります」というだけでは、「市長によるパワハラを安全に通報できます」とは言えない。
上富田町では、公益通報制度の対象となる「職員等」に町長、副町長、教育長まで含まれている。一方で、確認できた制度上の窓口は総務課長など庁内ルートであり、町長本人が重大案件の当事者となった場合に、町長の人事権から完全に独立した弁護士や第三者機関が調査する仕組みまでは、今回確認した公開資料からは確認できなかった。
逆に、和歌山県教育委員会には内部窓口に加えて外部弁護士への通報先があり、匿名通報も認められている。県内で独立した通報制度を考えるうえでは、こうした仕組みは参考になる。
必要なのは「首長を疑う制度」を最初から持っておくこと
ここで重要なのは、「条例さえ作ればパワハラがなくなる」という話ではない。条例があっても、相談窓口が首長の人事権の中にあり、通報者が不利益を恐れて声を上げられなければ意味がない。
横浜市の第三者委員会や全国の制度を比較すると、少なくとも次の仕組みが重要だ。
- 市長・町長、副首長、教育長などの特別職を明確に対象にする
- 首長本人が当事者の場合に、庁内人事部門を通らない外部相談窓口を設ける
- 弁護士など第三者に調査権限を持たせる
- 通報者への不利益な取扱いを禁止する
- 首長側にも調査への協力義務を課す
- 調査結果や勧告、再発防止策を議会や住民に説明する
重要なのは、「条例があるか」より、「市長本人を市長の指揮命令系統から外して調査できるか」という点だ。

「誰を市長にするか」だけでなく、「誰が市長を止めるか」
選挙では、誰を市長や町長にするのかが問われる。もちろん、それは重要だ。しかし、どんな人物であっても、権力を持つ以上、問題を起こす可能性はゼロではない。
だから必要なのは、「良い人を選ぶこと」だけではない。問題が起きたときに、その人を調査し、止められる制度を先に作っておくこと。である。
横浜市長の問題が示したのは、「首長を監督する制度が全く存在しない」ということではない。不信任、リコール、議会調査、第三者調査などの制度はある。しかしそれらは、問題が大きくなった後に使われるものが多い。
本当に問われているのは、重大事件になる前に、職員が安心して「市長本人の言動」を訴え、それを市長の人事権から独立して早期に調査できるか。という平時の仕組みだ。
そしてもう一つ。選挙で、「この人を選んでほしい」と市民に訴えた政党や議員も、問題が明らかになった後には、「なぜ支持したのか」「何を確認していたのか」「その判断を今どう評価しているのか」を説明する必要があるのではないか。
市長の不祥事を監督するのは誰なのか。そして、その市長を「選んでほしい」と言った人たちは、問題が起きた後に何をするのか。
横浜だけの問題ではない。
あなたの住む市や町で、市長や町長自身がパワハラの当事者になったとき、職員はどこへ通報すればいいのだろうか。
一度、確認してみてもいいのではないだろうか。