COOL WAKAYAMA考察

25歳で7,136票。幸前そらは「SNS政治家」になれるのか

2026年和歌山市長選で25歳・公職経験なしの幸前そら氏は7,136票、得票率6.73%を獲得した。選挙期間中の街頭活動やSNS発信を検証し、浜田聡氏の京都府知事選とも比較しながら、「選挙中だけのSNS」と「平時から支持基盤を育てるSNS政治」の違いを考える。

街頭でマイクを持つ若手候補の後ろ姿と、配信中のスマートフォンを使い、和歌山市長選におけるSNS政治を表現したイメージ
25歳で7,136票。幸前そらは「SNS政治家」になれるのか

和歌山市長選から見えた、選挙SNSと平時SNSの違い

2026年8月9日に行われた和歌山市長選挙

6人が立候補した選挙で、選挙公報に25歳と記載された幸前そら氏は7,136票を獲得した。結果は6位。有効投票10万5,964票に対する得票率は約6.73%だった。

開票結果では、1位は3万215票、2位は2万2,998票、3位は2万2,431票。幸前氏と上位候補との差は大きい。

したがって、7,136票を「大健闘」と単純に持ち上げるのは違う。

一方で、「最下位だった」で終わらせるのも少し惜しい。

今回の候補者の中で、幸前氏は年齢も政治キャリアも明らかに異質だった。そして、映像やSNSを使った情報発信にも親和性の高い候補だった。

そこで気になる。

幸前そら氏は、SNSを使ったから7,136票を獲得したのだろうか。

そして、もっと重要な問いがある。

選挙期間中にSNSを使うことと、「SNS政治家」であることは同じなのだろうか。

調べていくと、本当に見るべきなのは選挙期間の7日間だけではないように思えてくる。

「突然現れた25歳」ではなかった

選挙公報に掲載された幸前青空氏は、市長選に出る前から和歌山で地域活動を続けていた。

代表を務める「クリーン&コネクト和歌山」は2021年に設立され、和歌山城や紀の川、加太などで清掃活動を継続している。2023年のニュース和歌山の記事でも、当時21歳だった幸前氏が、清掃を通じて世代や職業を超えた交流の場をつくりたいと語っている。

つまり、2026年8月になって突然「25歳の候補者」が現れたわけではない。

少なくとも数年間、

地域で活動すること。人とつながること。そして、その活動を発信すること。

この蓄積があった。

ここは、今回の選挙を見るうえで重要だ。

幸前氏の得票を「若さ」や「SNS」だけで説明しようとすると、それ以前の地域活動が抜け落ちてしまう。

7日間の選挙戦は、ネットだけではなかった

和歌山市長選は8月2日に告示され、8月9日に投票が行われた。選挙運動ができたのは8月8日までの7日間だ。

幸前氏は選挙期間中、街頭演説や駅前での活動、個人演説会、市民との対話と並行してSNSで情報を発信した。

ここで注意したいのは、「若い候補者」「映像に強い」「SNSを使っている」という3点だけを見ると、いかにもインターネット中心の選挙に見えてしまうことだ。

しかし実態は、SNSだけで完結した選挙ではない。

街頭に立つ。

人と話す。

演説会を開く。

そこで行っていることをSNSでも伝える。

むしろ、従来の選挙運動とデジタル発信を組み合わせた選挙と見る方が近い。

「25歳」は年齢ではなく、選挙メッセージだった

幸前氏の最大の特徴は、やはり25歳という年齢だった。

ただし、これは単なるプロフィールではない。

今回の選挙では、「若者」「行動力」「しがらみのなさ」といった言葉が、候補者本人の若さと結びついていた。

「若い候補者が若者政策を訴える」。

これは分かりやすい。

政策の細部をすべて読まなくても、候補者が何を象徴しようとしているのかが伝わるからだ。

他候補の多くが長い政治経験を持つ中で、公職経験のない25歳が立候補したこと自体が、メッセージになっていたとも言える。

つまり幸前氏は、

「25歳だから経験がない」という弱点を、「25歳だから既存政治とは違う」という候補者ブランドへ変換しようとした。

少なくとも選挙コミュニケーションとしては、そこに特徴があった。

では、7,136票は多かったのか

ここは慎重に見たい。

幸前氏の得票は7,136票。得票率は約6.73%。6候補中6位だった。トップの3万215票とは2万3,079票の差がある。

市長当選を現実的に争った数字とは言いにくい。

以前なら「7,136票なら市議選では上位に相当する」と比較したくなるところだが、それも適切ではない。

市長選は1人を選ぶ選挙だ。一方、市議選は多数の候補から複数人を選ぶため、票が大きく分散する。同じ7,000票でも意味が違う。

比較するなら、票数そのものよりも、候補者数が近い過去の市長選における新人候補の得票率などを見る方が妥当だろう。

今回の7,136票について確実に言えるのは、

有効票を投じた人のおよそ15人に1人が、幸前氏を選んだ。

そこまでである。

それを「ものすごい支持」と評価するのも、「ほとんど支持されなかった」と切り捨てるのも、少し雑だ。

「若者票」「SNS票」は、本当に存在したのか

さらに難しいのが、誰が幸前氏に投票したのかという問題だ。

25歳だから若者が投票した。

SNSを使ったからSNSユーザーが投票した。

つい、そう考えたくなる。

しかし候補者別の年代別得票が公開されていなければ、それを証明することはできない。

SNSのフォロワー数や再生数と実際の投票行動を結びつけるデータもない。

したがって、

「若者票を集めた」

あるいは、

「SNSで7,136票を獲得した」

と断定することはできない。

考えられる要因は複数ある。

25歳という際立った属性。選挙以前からの地域活動。街頭での直接対話。SNSによる発信。そして「若さ」「行動力」「しがらみのなさ」という候補者像。

おそらく、それらが複合的に作用したのだろう。

ただし、それぞれが何票を生んだのかは分からない。

ここを曖昧なまま「SNS選挙の成功」と呼んでしまうと、肝心なところを見誤る。

SNSを持っている政治家は、和歌山にもいる

では、和歌山では政治家がSNSを使っていないのか。

そんなことはない。

例えば和歌山市議の戸田正人氏は公式サイトで動画レポートや活動報告を掲載している和歌山市議会の議員紹介でも、本人はブログ、Facebook、Instagramなどによる情報発信を市民との距離を縮める手段として位置づけている。

つまり、「政治家がSNSを使う」ということ自体は、もう珍しいことではない。

ただ、ここに一つ大きな違いがある。

議会質問をした。

視察に行った。

イベントに参加した。

それをブログやInstagramで報告する。

これは政治活動の広報だ。

もちろん必要なことだが、それだけではSNS上に新しい政治的支持基盤が形成されるとは限らない。

SNSを「活動報告の掲示板」として使うことと、

政治そのものを日常的なコンテンツにして、人が継続して見に来るメディアをつくること。

この二つは似ているようでかなり違う。

浜田聡の京都府知事選は、何が違ったのか

比較対象として興味深いのが、2026年4月の京都府知事選に出馬した浜田聡氏だ。

浜田氏は京都府選挙管理委員会の開票結了速報によると18万1,998票を獲得し、3候補中2位だった。

もちろん、京都府知事選と和歌山市長選を得票数で直接比較する意味はない。

人口も有権者数も候補者数も違う。

注目したいのは、選挙に入るまでの過程だ。

浜田氏は選挙が始まってから突然SNSを使い始めた政治家ではない。

以前から政治や政策について継続的にインターネットで発信し、それを見る視聴者や支持者が存在した。

ここが、単なる「選挙SNS」とは違う。

選挙期間になって候補者がSNSを使うのではなく、

平時にネット上で形成した人とのつながりを、選挙時にリアルな運動へ変えていく。

この構造が重要なのだと思う。

SNSの政治的な強さは、フォロワー数や動画再生数だけでは測れない。

最後に問われるのは、

その画面の向こうにいる人が、実際に動くのか。

ということだからだ。

幸前そらと浜田聡は、同じ「SNS派」ではない

幸前氏も浜田氏も、デジタル発信に親和性がある。

しかし現時点では、同じタイプの政治家とは言いにくい。

幸前氏の場合は、

地域活動やリアルな人間関係をつくり、それをSNSでも発信する。

という方向が強い。

浜田氏の場合は逆だ。

平時のネット発信によって視聴者や支持者との関係をつくり、それが選挙になったときリアルの活動へ広がる。

言い換えれば、

幸前氏は「リアルからネットへ」。浜田氏は「ネットからリアルへ」。

似ているようで、選挙基盤の作り方はかなり違う。

そして、この違いこそ幸前氏の今後を見るポイントになる。

本当に見るべきなのは、8月10日以降

選挙運動は8月8日に終わり、8月9日に投票が行われた。

だが、幸前氏が本当に「SNSを使う政治家」なのかを見るなら、重要なのはむしろ選挙が終わった後だ。

市長選で掲げた政策を追い続けるのか。

和歌山市議会や市政の動きを解説するのか。

地域活動を続けるのか。

選挙がない時期にも動画や文章を発信するのか。

自分に投票しなかった人も含め、市民との対話を続けるのか。

ここから数年、それを続けられるかどうかで今回の7,136票の意味は変わってくる。

選挙期間中だけなら、ほとんどの候補者がSNSを使う時代になった。

本当に難しいのは、

投票箱が片付けられた翌日からも発信を続けることだ。

和歌山に「平時のSNS政治」は生まれるのか

これは幸前氏一人だけの話でもない。

和歌山県や和歌山市もX、Instagram、YouTube、TikTokなど複数のSNSを活用しており、政治・行政情報がSNSに載ること自体は特別ではなくなっている。

それでも、

選挙とは関係なく、和歌山の政治や行政について日常的に見たくなるコンテンツ

となると、まだ多いとは言いにくい。

市議会で何が議論されているのか。

なぜこの公共事業が必要なのか。

和歌山市の予算はどう使われているのか。

人口減少にどう向き合うのか。

観光政策は本当に成果を上げているのか。

こうしたテーマを、選挙のときだけではなく平時から発信し、それを見る人が増えていく。

そこまでいって初めて、SNSは「選挙ポスターのデジタル版」から一歩先へ進む。

7,136票より、その翌日から何をするか

幸前そら氏は2026年和歌山市長選で7,136票を獲得した。

6候補中6位、得票率約6.73%。

この数字だけで、「SNS選挙が成功した」とは言えない。

若者から支持されたとも断定できない。

ただし、25歳で市長選に立候補し、地域活動、街頭活動、直接対話、そしてデジタル発信を組み合わせて7,136票を得たという事実は残った。

問題は、ここからだ。

市長選で語ったことを、選挙が終わっても語り続けるのか。

地域での活動を続けるのか。

和歌山市政を追い続けるのか。

そして、選挙のときだけ現れる「候補者」ではなく、日常的に地域政治を発信する存在になれるのか。

幸前氏が本当にSNS型の政治家なのかどうかは、今回の選挙期間だけではまだ判断できない。

むしろ、その答えが見え始めるのはこれからだ。

7,136票が一度きりの票になるのか。

それとも、次につながる7,136票になるのか。

2026年8月9日の開票結果以上に注目したいのは、その翌日から幸前そら氏が何をするのかである。